定価3,520円(本体3,200円)
発売日2025年5月26日
ISBN978-4-7917-7716-7
正義感溢れる小説家か、それとも植民地主義の相続人か——。
『異邦人』に登場する「アラブ人」には名前がなく、『ペスト』の舞台アルジェリア・オランに登場するのは、フランスからの入植者ばかり——これまでにない視点からカミュの代表作を読み直すことで、反植民地主義者にしてヒューマニストという称号を与えられた作家の、もうひとつの顔を描き出す。カミュの文学的戦略が明らかになるとき、その「偶像」を利用してきた政治的空間もまた、白日のもとに晒される。
[目次]
まえがき フレドリック・ジェイムソン
序章
第一章 人間の顔をした植民地主義のために
植民地と本国——分岐する流路
ヴィオレットびいきのカミュ
便利な偶像
第二章 植民地の表象
『異邦人』、否‐小説
『異邦人』の批評家たち
植民地の表象——ムルソーの無関心と忠誠
大文字の歴史からの逃走としての自然
『ペスト』、あるいはつきまとう伝染の恐怖
「不愉快なことを大いに話そうじゃないか」
第三章 サルトルとカミュ、離れがたき二人
二人のアフターライフ
バッド・エンドの友情?
サルトル、抵抗する知識人
カミュ、「遅れをとった色々な理由(わけ)」
カミュ、レジスタンスの論説委員
実存主義との距離
犠牲者も否、死刑執行人も否
『正義の人びと』、統率された暴力
『反抗的人間』、革命に抗う反抗
『反抗的人間』に対する批判と擁護
第四章 アンチ・サルトル
『転落』
『追放と王国』
『最初の人間』——アダムという名の植民者
第五章 受容
歯切れの悪いギロチン
対独協力者の粛清(エピュラシオン)に「賛成」
死刑廃止論者カミュ?
ギロチンをめぐる転調
カミュと女性たち——僕の母は別格
カミュの汚名をすすぐダウド
カミュとマダガスカルにおける鎮圧
カミュ、先取りのポストモダン
謝辞
原注
[著者]オリヴィエ・グローグ(Olivier Gloag)
アメリカ合衆国の文学研究者。主な研究テーマは、フランス文学における植民地表象、政治理論、20世紀フランスの文化史と文学史。デューク大学でフレドリック・ジェイムソンに師事。著作としてAlbert Camus: A Very Short Introduction[入門 アルベール・カミュ](Oxford University Press, 2020)、共著にThe Sartrean Mind[サルトルの精神](Routledge, 2020)がある。
[訳者]木岡さい(きおか・さい)
南フランス、カミュの墓があるルールマランの近くに在住。フランス語と日本語で書き、フランス語‐日本語の翻訳をするフランス人と日本人の二人組。2022年度潮流詩派年間最優秀批評エッセイ賞受賞。フランスの文芸翻訳団体「Atlas」の会員。
[解題執筆者]中村隆之(なかむら・たかゆき)
早稲田大学法学学術院教授。フランス語圏文学、環大西洋文化研究を専門とする。著書に『ブラック・カルチャー 大西洋を旅する声と音』(岩波新書、2025 年)、訳書にエドゥアール・グリッサン+パトリック・シャモワゾー『マニフェスト 政治の詩学』(以文社、2024年)、エドゥアール・グリッサン『カリブ海序説』(共訳、インスクリプト、2024年)などがある。