ためらいと決断の哲学

-ゆらぎゆく因果と倫理-

一ノ瀬正樹 著

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ためらいと決断の哲学

定価2,970円(本体2,700円)

発売日2024年7月11日

ISBN978-4-7917-7649-8

〈ためらう〉のは悪いことではない
不確定な現実を前にして私たちはためらうべきである。しかしためらいながらなお、決断することはできる――間違う可能性と責任を負う覚悟をもって。伝統的な因果論や倫理学説の緻密な検討をもとに新しいリーダーシップ論への展望を記す、日本を代表する哲学者の到達点。

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[目次]

まえがき 浮動的安定からウェルビーイングへ

1 伝わらない疑問/2 普遍性への執念/3 普遍性と絶対性の夢/4 宇宙視線/人生視線/5 ためらいと決断、そして浮動的安定/6 ウェルビーイングへの道/7 リーダーシップの未来へ

第一部 因果関係に潜む謎
第1章 因果と応報

1 なぜ因果関係か/2 森羅万象に食い込む因果関係/3 原因と責任の同義性/4 刑罰の問題/5 犯罪抑止?/6 原因指定のゆらぎ/7 恒常的連接による習慣/8 因果関係は知覚できない/9 共通原因の問題/10 共通原因の深淵/11 因果関係と確率・統計/12 「シンプソンのパラドックス」/ 13 因果的直観への問い/14 時空的接近と量子力学/15 時時間的先行と逆向き因果/16  不在因果という問題/17 因果関係をめぐる「ためらい」と「決断」

第2章 「思考実験」から「知識の新因果説」へ

1 なぜ「思考実験」か/2 ウィリアムソンと「ゲティア問題」/3 正当化された真なる信念? /4 「ゲティア・ケース」の論理的構造/5 「ゲティア直観」とそのさざ波/6 「非ゲティア・ケース」と二つの条件文/7 原因としての「ゲティア・ケース」の不在/8 認識的ニヒリズム/9 知識をめぐる「ためらい」と「決断」

第3章 不在因果と反事実的条件分析

1 見ると見ないの同時性/2 不在因果の問い/3 不作為と過失/4 意図的不作為と過失不作為/5 「根源的ペシミズム」と不在因果の可能性/6 オプティミズムへの道/7 ヒューム因果論への問い直し/8 反事実的条件分析への道

第4章 不在因果と責任帰属の構図

1 因果的先取/2 「野放図因果」と「不完全特定化問題」/3 選択する「ためらい」/4 規範性の逸脱/5 定量化への道/6 三次元説の提起/7 記述性度と規範性度/8 因果関係へのためらいと決断

第二部 倫理の深層へ
第5章 トリアージと人権

1 議論のすれ違い/2 トリアージという緊迫/3 救急外来でのトリアージ/4 COVID-19 に関する人工呼吸器の配分/5 「救命可能性」と「生存年数最大化」/6 トリアージをめぐる予防文脈と危機文脈/7 予防文脈の不整合性/8 トリアージと人権/9 「公共の福祉」と人権の制約/10 絶対的権利としての人権?/11 人権概念の基盤と「人民の福祉」/12 人権概念の普遍性の問題

第6章 動物倫理と鳥獣害の問題

1 ペスト・コントロール/2 欠損感/3 返礼モデル/4 動物倫理と鳥獣害の緊張/5 三毛別の惨劇/6 近年の鳥獣害/7 鳥獣害の広がり/8 動物の権利/9 権利と義務の相関性/10 動物観の根底へ/11 動物対等論

第7章 死刑不可能論の展開

1 死刑という問題/2 死刑存廃の実情/3 裁判員制度と死刑判決/4 残虐性と誤判可能性/5 抑止効果、世論、そして執行人/6 被害感情の問題/7 存廃論を越えて/8 死刑不可能論の提起/9死刑不可能論の含意/10  人権思想の源泉/11 人権思想と共同体主義/12 「死の所有」の観念

あとがき 「消えてなくなること」の彼方へ

参考文献
索引

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[著者] 一ノ瀬正樹(いちのせ・まさき)
1957年茨城県生まれ。土浦一高卒業。東京大学卒業。博士(文学)。哲学・倫理学専攻。東京大学大学院人文社会系研究科教授を経て、東京大学名誉教授、オックスフォード大学名誉フェロー、武蔵野大学教授。和辻哲郎文化賞、中村元賞、農業農村工学会賞著作賞を受賞。日本哲学会会長、哲学会理事長などを歴任。著書に『いのちとリスクの哲学―病災害の世界をしなやかに生き抜くために』(株式会社ミュー)、『英米哲学史講義』(ちくま学芸文庫)ほか多数。