定価2,860円(本体2,600円)
発売日2023年8月29日
ISBN978-4-7917-7580-4
点時刻への疑念。存在の空無性。無脳論の可能性。
日常生活から出発する〈意味のシミュレーション〉の方法で、これまでの哲学や科学で論じられてきたさまざまな時間論、実在論を乗り越え、〈脳〉と〈意識〉をめぐる常識を根底から覆す、大森哲学の鋭い切っ先。解説=野家啓一
[目次]
はじめに
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1線型時間の制作と点時刻
一 持続存在の時めき、時間と存在 二 未来―現在―過去の骨格時間 三 過去、現在、未来の生成 四 時間の計量と時刻付け 五 歴史と科学による仕上げ 六 点時刻の病理 七 時の流れと点時刻
2幾何学と運動――アキレス問題の解消
一 幅のない線を「思い描く」 二 三次元無限空間の生成 三 空間と幾何学 四 幾何学の図形の運動は矛盾 五 アキレスの運動表現
3ゼノンの逆理と現代科学
一 ゼノンの結論は不可避 二 点運動の逆理 三 飛ぶ矢の逆理 四 ベルグソン 五 科学汚染の懸念 六 科学の図解の点検 七 点時刻関数
4キュビズムの意味論
一 立体形の意味 二 立体形の知覚展開としての意味 三 キュビズムの描法 四 空間への抽象 五 空間の意味の生成 六 空間、そこに考えられた図形 七 キュビズムの空間描写
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5存在の意味――「語り存在」
一 日常的物体の知覚存在 二 細菌の存在の意味 三 原子等の存在意味 四 普通と集合の存在意味 五 数と幾何図形 六 通観、存在そのものと存在意味
6疑わしき存在
一 存在の原型としての日常世界 二 普遍の語り存在 三 数と幾何図形の存在 四 素粒子の語り存在 五 先行(アプリオリ)存在の意味
7色即是空の実在論
一 生活の中の実用的実在論 二 科学的実在論 三 過去実在性と実在論 四 色即是空、個々の実在論
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8無能論の可能性
一 生理学のドグマ 二 無能仮説 三 知覚の場面――無脳論 四 経験の帰属と脳 五 重ね描き
9脳と意識の無関係
一 時空連続過程としての因果 二 脳→意識因果の不調 三 視覚風景と脳の重ね描き 四 脳の機能再考 五 心脳因果と重ね描き
10意識の虚構から「脳」の虚構へ
一 自我の意味制作のシュミレーション 二 語り存在としての自我 三 コギト主体への拡大 四 大脱線、「私の意識」 五 「脳」概念の発症 六 因果に替えて「重ね描き」
初出一覧
解説 存在の意味の制作(ポイエーシス)――大森荘蔵の「晩年様式集(イン・レイト・スタイル)」(その2) 野家啓一
[著者]大森荘蔵(おおもり しょうぞう)
1921年岡山県生まれ。1944年に東京大学理学部物理学科を卒業、1949年に同大学文学部哲学科を卒業。東京大学教養学部教授、放送大学教授を歴任。独自の哲学を打ち立て、多くの後進に多大な影響を与えた。著書に『物と心』『新視覚新論』ほか多数。『時間と自我』にて第5回和辻哲郎文化賞受賞。1997年没。