「人新世」の惑星政治学

-ヒトだけを見れば済む時代の終焉-

前田幸男 著

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「人新世」の惑星政治学

定価2,860円(本体2,600円)

発売日2023年6月20日

ISBN978-4-7917-7561-3

超マクロから超ミクロまで、気鋭の政治学者による、異彩を放つ新しい政治学の誕生。

太陽も地球も海藻も土も出てこない社会科学に何が欠けているのか、最も真剣に思考してきたのが著者である。「センス・オブ・ワンダー」を呼び覚まそうとする平和学がここにある。
小川有美立教大学法学部教授)

人間中心的な発想を徹底的に見直し、人間とノン・ヒューマンとの関係をどこまでもフラットなものとして捉え直す。本書は、これまでの政治学・国際関係論への根本的な挑戦である。
田村哲樹(名古屋大学大学院法学研究科教授)

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[目次]

まえがき

序章 「人新世」の政治的リアリズム――惑星思考の鍵を握る人智圏と感受性
1 「人新世」の衝撃を振り返る――全球的秩序をめぐって
2 惑星思考への接続
3 「人新世」に先行する議論――「人智圏」
4 なぜ感受性なのか――共存する全体性へのバランスの感覚


第Ⅰ部 「人新世」の惑星政治学


第1章 惑星政治とは何か――人新世時代の脱人間中心主義に向けて
はじめに――批判的国際関係論の先にある惑星政治
1 「人新世」時代とは何か

2 「人新世」概念への批判に応答する
3 政治学・国際関係論における暗黙の前提の問い直し
4 多重絶滅の危機の時代
5 批判的地政学の新展開――気候変動問題を通した地政学の刷新
6 人間中心主義的アプローチの組み換えへ
7 新しい形の連帯は可能か?――気候変動の危機に向けた国際的取り組みの現実
8 技術的応急措置の限界
おわりに――惑星限界を前にして

第2章 国際政治学はマテリアル・ターンの真意を受けとめられるか?――多重終焉の黄昏の中で
はじめに

1 マテリアル・ターンとは何か?
2 確かに終焉なのだ、しかし何の?
3 リアリズムのリバイバル?
4 ジオ・パワーに基づいた新しい地政学へ
おわりに――日本からの応答?

第3章 領土と主権に関する政治理論上の一考察――暴力、人民、国連をめぐるアポリアに抗して
はじめに

1 領土
2 主権
おわりに――揺らぐ領土概念と主権概念の中で平和を創ることとは

第4章 石油から見る惑星限界の系譜学――ヒトとモノによる世界秩序
はじめに

1 化石燃料から捉え直す世界秩序
2 石油の呪い再
3 重要なのは化石燃料の物質特性だ
4 石油の「安定的確保」のための統治の諸技法
5 石油が示す四重の越境線
6 惑星限界問題への接続――石油需給問題と気候変動問題の交差
おわりに


第Ⅱ部 ノン・ヒューマンと共に生きる――生命の序列化を超えて


第1章 構造的暴力論から「緩慢な暴力」論へ――惑星平和学に向けた時空認識の刷新に向けて
はじめに――ヨハン・ガルトゥング「構造的暴力」概念の限界
1 「平和でない状態」≠構造的暴力の中にいる状態
2 ガルトゥング暴力論の射程としてのヒト
3 「緩慢な暴力」とは何か
4 「緩慢な暴力」を捉えるための惑星平和学という枠組み
5 人類による化石燃料の獲得・使用に由来する「緩慢な暴力」
6 「緩慢な暴力」論を通した時空認識の刷新へ
7 「緩慢な暴力」進行に対抗するための時空論的視座
おわりに――マテリアルな状況変化に平和学はどう向き合うか

第2章 ノン・ヒューマンとのデモクラシー序説――ヒトの声だけを拾えば済む時代の終焉へ
はじめに

1 自由民主主義の機能不全
2 リベラルの根深い問題――人間例外主義/人間偏重主義というバイアス
3 ヒトが媒介するエコロジカルな民主主義
4 ノン・ヒューマンの「声」――非言説的代表とは何か
5 政治的主体としてのノン・ヒューマンへの注目
6 ノン・ヒューマンの権利保障を謳う立憲主義的デモクラシー
おわりに――ノン・ヒューマンとの戦争から政治への転換

第3章 脱人間中心のガイア政治――リスクとしての人間とポストSDGsへ
はじめに
1 「認識の欠落」に関わる三つのリスク
2 ガイアとは何か?
おわりに――リスクへの対処か、ガイアとの政治か

第4章 人新世のアナーキカル・ソサイエティ――ノン・ヒューマンとの戦争論として読み解く「持続可能な開発目標」
はじめに
1 言葉の意味の二重性――自然と開発
2 四つの異なる存在論――世界、グローバル、地球、惑星
3 戦争を糸口としてSDGsを理解する――持続可能性ではなく生息可能性から
4 「ガイアとの交戦状態」の意味
5 ヒトか「大地に根差すもの」か――ホッブズとシュミットのガイア的活用法
6 「人新世のアナーキカル・ソサイエティ」
7 「大地の多様性」が支える「生物多様性」
8 人新世における「解放」――いかなる主体が可能なのか
おわりに

第5章 ノン・ヒューマン(と)の平和とは何か――近代法体系の内破と新たな法体系の生成へ
はじめに――「気候変動と21世紀の平和」プロジェクト立ち上げの経緯
1 平和学にとっての人新世の意味――バイオームとアンスローム
2 脱炭素/低炭素社会に向けた採掘という「緩慢な暴力」
3 地球という惑星から考える「複数の文化・複数の自然」の平和
4 ノン・ヒューマンが生み出す動的平衡――「山川草木悉皆成仏」の視座から
5 近代法体系変容の兆し
6 何がラディカルな近代法体系変容の鍵を握るのか
おわりに――結局、センス・オブ・ワンダーが人類を救う


参照文献
あとがき――研究、教育、そして実践へ

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[著者]前田幸男(まえだ・ゆきお)
1974年、神戸市生まれ。創価大学法学部教授。専門は政治学・国際関係論、平和学。創価大学文学部卒業後、2010年に国際基督教大学で博士(学術)号取得。同大学社会科学研究所助手、大阪経済法科大学法学部准教授を経て、現職。学際的な視点で「惑星政治学」の構築に取り組む。著書に『批判的安全保障論——アプローチとイシューを理解する』(共編著、法律文化社、2022年)、『政治と音楽——国際関係を動かす“ソフトパワー”』(分担執筆、晃洋書房、2022年)など、訳書にリチャード・フォーク『パワー・シフト——新しい世界秩序に向かって』(共訳、岩波書店、2020年)などがある。