定価2,640円(本体2,400円)
発売日2023年6月22日
ISBN978-4-7917-7557-6
森鷗外、寺田寅彦、宮本百合子、森茉莉、湯川秀樹、井上ひさし……
随筆にこそ宿る、「これぞ人生」と思わず唸る作家の名表現。情緒豊かで、粋で軽快、ユーモアにあふれた自由な表現の数々に酔いしれる。日本語学の第一人者が案内する、極上の随筆名鑑。
[目次]
1 幾千万代の記憶 小泉八雲
2 背後の影を顧みる 森鷗外
3 縁側に一眠り 夏目漱石
4 真っ白な豪気な歯で臑骨をガリガリ 幸田露伴
5 三分の茶気と二分の皮肉 内田魯庵
6 頽廃の空気が書冊の香いに交って 島村抱月
7 雲か煙か、晴天に怪物が出現 岡本綺堂
8 豆府と言文一致 泉鏡花
9 月影を浴び花影を印する万古の雪 小島烏水
10 一、二杯の霜消し 高浜虚子
11 永い忘却、天涯万里の漂遊 柳田国男
12 良心のある鼠 薄田泣菫
13 命日が誕生日 窪田空穂
14 先生が海老を残したら 寺田寅彦
15 生地のままの巨人 与謝野晶子
16 一生の伴侶とする樹 鏑木清方
17 蕗から巡礼の歌が 片山広子
18 知らぬ世の、知らぬ人の手に 永井荷風
19 雨の音 石原純
20 奇跡のめぐりあい 会津八一
21 あんぱんが湯気をたてて 高村光太郎
22 芸術は見る瞬間 野上豊一郎
23 町端れの灯 志賀直哉
24 誰かある 佐々木邦
25 秋山微笑居士 岩本素白
26 塵芥の中から宝石を 荻原井泉水
27 天命を生かし合い 武者小路実篤
28 渓谷へ霧の如く散る 飯田蛇笏
29 情調の吐息 北原白秋
30 道を訊くなら年若い女 石川啄木
31 釣銭はいらないよ 小出楢重
32 山懐の花盛りに 折口信夫
33 才能があるのは致命的欠陥 里見弴
34 無神論者も酔う 岡本かの子
35 よしてよ、ほんとのこと言うの 久保田万太郎
36 漱石の鼻毛が焼失 内田百閒
37 テッペンカケタカ 日夏耿之介
38 清濁併せ呑む 広津和郎
39 文章も匂いを失う 芥川龍之介
40 輿入れしてきた花嫁さん 堀口大学
41 孤高の姿 中川一政
42 彫刻を撫でる 宮城道雄
43 木彫の鑿の切れ味 瀧井孝作
44 秋の夕陽の中で 福原麟太郎
45 愚夫と愚妻 高田保
46 血の通った安住感 林達夫
47 パリのタタミイワシ 大佛次郎
48 篝火の後の闇 横光利一
49 どきどきしないと損 井伏鱒二
50 二十銭で変る 宮本百合子
51 湖水の底 川端康成
52 ほんとうの軽薄 石川淳
53 尾崎一雄様方 夕顔御許に 尾崎一雄
54 葡萄酒に似た液体 三好達治
55 聞いたような名 網野菊
56 天に鋼板がない 中谷宇吉郎
57 切符切りでパチンと 梶井基次郎
58 ささ濁り 河上徹太郎
59 人間になりつつある動物 小林秀雄
60 食事の場面は照れくさい 上林暁
61 走者が砂を払う一瞬前 サトウハチロー
62 随時小酌 林芙美子
63 家族のダンテ 草野心平
64 指が痒くても 森茉莉
65 眩しい光線がたらたらと 深田久弥
66 蕎麦がうまいからといって 木山捷平
67 遠い風景 佐多稲子
68 樹下思惟 堀辰雄
69 新調した風呂にもう一度 永井龍男
70 鏡の余白は秋の水色 幸田文
71 滅んだふるさとの花祭り 原民喜
72 古本屋の幽霊 伊藤整
73 白紙の手紙 円地文子
74 池で上下、鏡で左右 朝永振一郎
75 御大切に 坂口安吾
76 混沌に目鼻 湯川秀樹
77 神様は太っ腹 沢村貞子
78 新聞を日光消毒 大岡昇平
79 顎を上にして 吉田健一
80 欅の梢が星を掃く 串田孫一
81 白焼きは芸術品 小沼丹
82 ハカナサと胡散臭さ 安岡章太郎
83 生田の山の親分さん江 庄野潤三
84 侘しい蝦蟇口 吉行淳之介
85 あるのは眼前の日々 藤沢周平
86 境内に鰺焼く匂い 向田邦子
87 町は低くなった 竹西寬子
88 ろうたける 青木玉
89 人間の脂 三浦哲郎
90 すきまの美意識 久保田淳
91 「だから」は百万巻の御経 井上ひさし
92 ほんとうのことは言わなくていい 秦恒平
93 読者は風景の中に 三木卓
94 美しくお暮し下さい 佐佐木幸網
95 うしろ姿は寂しい 宮本輝
96 世界一寂しい人 俵万智
あとがき 遙かなる航跡
参照文献
[著者]中村明(なかむら・あきら)
1935年山形県鶴岡市生まれ。早稲田大学名誉教授。主著に『日本語文体論』『日本語 語感の辞典』『日本の作家 名表現辞典』『日本語 笑いの技法辞典』(岩波書店)、『日本語のおかしみ』『美しい日本語』『日本語の作法』『五感にひびく日本語』『日本語の勘』『日本語名言紀行』(青土社)がある。