「人間ではないもの」とは誰か

-戦争とモダニズムの詩学-

鳥居万由実 著

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「人間ではないもの」とは誰か

定価3,960円(本体3,600円)

発売日2022年12月26日

ISBN978-4-7917-7523-1

動物になる、人間になる、機械になる——
大正末から昭和初期、社会構造の変動と戦争の到来によって危機を迎えつつあった人間という「主体」は、モダニズムの時代と表現を作り出した。やがて詩人たちが謳いあげる人間の像も変貌していくこととなる。ときに昆虫として、工場の機械として、戦地を飛ぶ鳥として、動物園の猛獣として、おっとせいとして、「人間ではないもの」が跋扈しはじめていた。左川ちか、上田敏雄、萩原恭次郎、高村光太郎、大江満雄、金子光晴……。時代に浚われていった詩人たちの作品を渉猟し、プレヒューマンとポストヒューマンを架橋していく新たな批評がここに芽生える。卓越した詩人でもある著者による画期となる決定的著作。

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[目次]

凡例

序章
1 人間の「主体」とイデオロギーの関係
2 本書の構成
 第一部
 第二部
3 モダニズムとは何か

第一部 モダニズム詩における「人間ではないもの」の表象

第一章 ジェンダー規範と昆虫――左川ちか
はじめに
1 「何者でもないわたし」
2 永遠なる他者「詩のミューズ」
3 「詩のミューズ」の殺害
4 人間ではないものに内面を託すこと

第二章 人間主体を抹消する機械――上田敏雄
はじめに
1 人間を詩から抹消する
2 分裂する自我
3 大衆消費社会と自己意識
 3―1 広告の影響
 3―2 劇場としての都市空間
 3―3 劇場空間への風刺
4 『仮説の運動』
5 「燃焼する水族館」

第三章 主体の解体と創造――萩原恭次郎
はじめに
1 農村に安らう身体
2 都市環境における身体の変化
 2―1 人工空間
 2―2 交換価値のない魂
 2―3 無用の機械としての肉体
 2―4 枯れていく自然
3 規律を離れた無用の身体
4 新しい主体への創造と破壊
 4―1 首のない身体――全体に従わない部分
 4―2 機械による感覚の解体
 4―3 メディアによる存在感覚の変容
5 結び直される主体

第二部 戦争詩における「人間ではないもの」の表象

第一章 戦時下の理想的な人間主体
はじめに
1 空間軸に位置付けられる主体
2 時間軸に位置付けられる主体
3 個人の集合体への溶融
4 そして沈黙が支配する

第二章 自己と他者が出会う場所――高村光太郎
はじめに
1 清らか・純潔であろうとする傾向
2 「純粋な」動物に託される自己
3 動物園における「見る/見られる」
4 戦争詩における動物性の反転

第三章 戦争の中の機械と神――大江満雄
はじめに
1 プロレタリア詩人時代
 1―1 機械の肉体
 1―2 機械の精神
2 転向後の変化
 2―1 故郷という原点への回帰
 2―2 「鷲」の登場
 2―3 みずから狂気を選ぶこと
 2―4 国の滅びと個人の発見
 2―5 肉体の抽象化
 2―6 機械と神が残したもの

第四章 「人間ではないもの」として生きる――金子光晴
はじめに
1 抵抗詩以前の動物
2 戦時下における権力構造と動物
 2―1 流民/苦力
 2―2 犬/天使
 2―3 おっとせい
 2―4 鮫
3 自画像としての「人間ではないもの」
 3―1 アブジェクトとしての自画像
 3―2 へべれけの神
 3―3 「大腐爛頌」

終章
1 動物と機械表象が登場する詩
2 現代とこれからの展望


参考文献一覧
初出一覧

あとがき

索引

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[著者]鳥居万由実(とりい・まゆみ)
1980年東京都生まれ。文学研究者、詩人、英日翻訳家。東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻博士課程修了。博士(学術)。論文に、「金子光晴の詩集『鮫』におけるヒエロニムス・ボッシュの影響」(『言語態』2018年3月)などがある。2008年、第一詩集『遠さについて』(ふらんす堂)により中原中也賞最終候補。他に、実験的散文集『07.03.15.00』(ふらんす堂、2015年)がある。