定価2,420円(本体2,200円)
発売日2022年4月19日
ISBN978-4-7917-7463-0
清少納言、藤原定家から、夏目漱石、井伏鱒二、太宰治、
村上春樹、小川洋子まで――。
カーンと冴えわたる比喩、はっと驚くオノマトペを発見し、締め付けられるような悲哀やほのぼのとおかしいユーモアに心を掴まれる。日本語学の第一人者とともに、日本語の名所を訪ね歩く。明日から真似したい表現の歴史遺産。
[目次]
天象 秋の夕陽の中で静かに熟れてゆこう
【天】則天去私 【空】東京には空が無い
【虚空】花びらと冷たい虚空 【夕焼け】石膏色と夕焼け
【虹】びしょ濡れで眺める虹 【星】消滅した星が光る
【月】手が届きそう 【月夜】桜月夜
【日】光の中へ溶けて
気象 晴れた空から忘れられた夢のように白い雪片が
【灯】夜の脈搏 【火】五彩の花々
【影】体を染める 【水】鉄瓶の口から
【雨】溜息のように 【雪】古窗の前
【雲】はぐれた白い雲 【日和】杖を忘れ
【風】遠い世の松風
時間 季節は街に、和菓子屋の店先から
【時】古思ほゆ 【曙】むらさきだちたる雲
【夕暮】日暮の気配 【季節】秋のけはひの立つままに
大地 この道より吾を生かす道なし、この道を行く
【世の中】いまひとたびの 【地】トンネルを抜けると
【山】浅間のお化け 【古里】遠きにありて
【道】行く人なし 【海】のたりのたり
【川】ゆく河の流れ
生涯 風は清し月はさやけしいざ共に踊り明かさん老の名残に
【人生】遅く生まれた 【生き方】懶惰の風情
【年齢】おのずからな清潔さ 【病】病気冥加
【死】きのふけふとは 【自殺】生意気だ
【死人】亡くなった子には勝てない 【別れ】サヨナラだけが人生だ
人間 あんな所へ誰が行くもんかと意地になる
【愚】われ愚人を愛す 【親子】孝行のしたい時分に
【夫婦】鏡の中のレモン 【友】友とするにわろき者
立場 学者はわからぬものをありがたがる
【職業】盗人の戸締り 【教師】エジプトの涙壺
【学生】文学に瘦せる
顔面 下顎が出っぱっているとせりふに凄みがつかない
【髪】その子二十 【顔】二千万人の祖先
【額】血管の影 【耳】空気を清冽に
【眼】咲くという眼なざし 【鼻】顔中にはびこる
【頰】恐ろしい笑くぼ 【口】ひらりと一さじ
【顎】ふくふくと動く
人体 一寸肱を曲げて、此縁側に一眠り眠る積である
【手】鬱陶しい触感 【脚】あまりに無防備
【首】レモンの切口 【胸】七月の葡萄の粒
【腹】臍が宿替え 【尻】放屁なされた
【肌】流れかかる 【姿】風に吹かれているような後姿
思考 少女の恋は詩、年増の恋は哲学
【睡眠】時雨空の薄日 【夢】この世にいたかもしれない
【幻想】ゆりかごの子守唄 【記憶】障子に映る影
【思い出】追憶というトランク 【心】朝日ににほふ山桜
【恋】くすぐったい沈黙
感情 鏡の余白は憎いほど秋の水色に澄んでいる
【喜】まぶしいような 【憤】じんじんと音を立てて
【愁】風の止んだ後 【怖】老松の大蟻
【惑】凍りつくようななさけなさ 【昂】下駄の理想型
感覚 お燗はぎすぎすして、突っ張らかって
【色】カーンと冴えかえって 【声】悲しいほど美しい
【音】余韻は夜もすがら 【匂】日光の匂い
【味】土くさい山くさい 【触】春風がふわりと
学芸 秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず
【宗教】極楽におはすらむ 【才知】大知は愚の如し
【美意識】虚実皮膜 【文学】詩は小説の息
【読書】著者との対話 【ことば】靴屋と文学者
動物 じいという煙のような声が立ち浸みている
【獣】横文字の新聞 【鳥】やがて悲しき
【虫】光の澱
植物 鋭く天を指しながら地の雪に立った
【桜】花びらながれ 【花】夢のしたたり
【草木】からまつの風
住居 西洋の風呂は事務的、日本の風呂は享楽的
【雪隠】神経衰弱 【風呂】風のような感想
【調度】大時計のある部屋
生活 通夜で飲む酒が一番うまい
【食】うちの味噌汁 【酒】酌み交わす前に
【金】白々しい返済 【遊】何して遊ぶ?
命運 文章推敲のシンボル漱石の鼻毛が焼失
【災禍】町は低くなった 【ヒューマー】靴を両手に提げて
参照文献
あとがき
[著者]中村明(なかむら・あきら)
1935 年9 月9 日、山形県鶴岡市の生れ。国際基督教大学助手、国立国語研究所室長、成蹊大学教授を経て、母校の早稲田大学教授となり、現在は名誉教授。主著に『比喩表現の理論と分類』(秀英出版)、『日本語レトリックの体系』『日本語文体論』『笑いのセンス』『文の彩り』『吾輩はユーモアである』『語感トレーニング』『日本語のニュアンス練習帳』『日本の一文30 選』『日本語 語感の辞典』『日本の作家 名表現辞典』『日本語 笑いの技法辞典』『ユーモアの極意』(岩波書店)、『作家の文体』『名文』『悪文』『文章作法入門』『たのしい日本語学入門』『比喩表現の世界』『小津映画 粋な日本語』『人物表現辞典』(筑摩書房)、『文体論の展開』『日本語の美』『日本語の芸』(明治書院)、『文章をみがく』(NHK 出版)、『日本語のおかしみ』『美しい日本語』『日本語の作法』『五感にひびく日本語』『日本語の勘』(青土社)、『比喩表現辞典』(角川書店)、『感情表現辞典』『分類たとえことば表現辞典』『日本語の文体・レトリック辞典』『センスをみがく文章上達事典』『日本語 描写の辞典』『音の表現辞典』『文章表現のための辞典活用法』『文章を彩る 表現技法の辞典』『類語分類 感覚表現辞典』(東京堂出版)、『漢字を正しく使い分ける辞典』(集英社)、『新明解 類語辞典』『類語ニュアンス辞典』(三省堂)など。『角川新国語辞典』『集英社国語辞典』編集委員。『日本語 文章・文体・表現事典』(朝倉書店)編集主幹。日本文体論学会代表理事(現在は顧問)、高校国語教科書(明治書院)統括委員などを歴任。