食う、食われる、食いあう マルチスピーシーズ民族誌の思考

近藤祉秋、吉田真理子 編

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食う、食われる、食いあう マルチスピーシーズ民族誌の思考

定価2,860円(本体2,600円)

発売日2021年11月1日

ISBN978-4-7917-7422-7

牡蠣がつくり育てられているとき、ウルシを掻くとき、乳牛とダンスレッスンするとき。
気鋭の研究者たちが各地の「食」をめぐる営みをフィールドワークし、そこで行われている農業や漁業のあり方、そして人間以外の生物たちとの関係を見つめ直す。それは、まったく新しいかたちで私たちが「ともに生きる」ことの複雑さに対峙する営為でもあった。文化人類学の複数の研究潮流が合流しながら発展を続ける、マルチスピーシーズ民族誌への招待状。

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[目次]

序章 人間以上の世界から「食」を考える / 近藤祉秋・吉田真理子
1 北極海の波打ち際で考えるマルチスピーシーズ民族誌
2 マルチスピーシーズ民族誌の誕生
3 これまでの人類学とどこが同じでどこが違うのか?
4 マルチスピーシーズ民族誌の展開可能性
5 食のマルチスピーシーズ民族誌に向けて

第一章 牡蠣がつくり育てられているとき――タスマニアと三重の事例から / 吉田真理子
1 間隙で考える
2 マガキと微生物と人間の共シンバイオポリティクス‐生政治 
3 マガキの価値形成
4 偶発的事態
5 自然を「不妊化」する
6 自然を「殺菌」する 7種内の労働と種間の労働 8おわりに――「あいだ」の多重性

第二章 乳牛とのダンスレッスン――北十勝の事例から / ポール・ハンセン
1 はじめに
2 想像力と他者
3 一望監視的な権力と保障すること
4 ウシになる――人間を超える生
5 機械になること――人間性の喪失
6 一望監視的まなざしの向こうに――人間になること

第三章  育種の産業化で人と野菜の対話は失われるのか――日本の種苗会社四社の事例から / 河合史子・西川芳昭
1 はじめに
2 種苗会社の起こりと固定種から交配種への移行について
3 表現型に基づく育種から遺伝子型に基づく育種へ
4 育種技術を支える育種認識観と育種モデル
5 考察

第四章 ウルシと共に生きる――関西の二つの山村地域から / 鈴木和歌奈
1 はじめに 
2 「シンポイエーシス」と害を与え合うこと
3 ウルシと里山の再生運動
4 ウルシを搔く
5 ウルシを食べる
6 おわりに

第五章  破壊された森とヤマアラシの生――マレーシアの事例から / 奥野克巳
1 プナンとヤマアラシ
2 リーフモンキーからヤマアラシへ
3 いったん廃墟となり現代産業により蘇った森
4 農薬が胃石をつくると、クニャーは言った
5 農薬とヤマアラシの胃石
6 ヤマアラシの胃石を買い付ける人たち
7 マレー半島で中医に用いられるヤマアラシの胃石
8 代替医療としてのヤマアラシの胃石の服用
9 環境変動時代のアッセンブリッジ

第六章 嗅ぎあう世界の狩猟と獣害――九州山地の事例から / 近藤祉秋・合原織部・福本純子
1 問題の所在
2 九州山地の伝統的生業と複数種の関係
3 近年の獣害とジビエ事業
4 考察――「人間以上の感覚」の視点から

あとがき 「食席」に関係づけること /吉田真理子・近藤祉秋    

 

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[編著者]近藤祉秋(こんどう・しあき)

神戸大学大学院国際文化学研究科講師。専門は文化人類学、アラスカ先住民研究。おもな論文に「内陸アラスカ先住民の世界と「刹那的な絡まりあい」――人新世における自然=文化批評としてのマルチスピーシーズ民族誌」『文化人類学』86 巻1 号、“Dog and Human from Raven's Perspective: An Interpretation of Raven Myths of Alaskan Athabascans”(Polar Science Vol. 28)。おもな共編著に『モア・ザン・ヒューマン――マルチスピーシーズ人類学と環境人文学』(以文社)がある。

[編著者]吉田真理子(よしだ・まりこ)

広島大学大学院人間社会科学研究科助教。専門は文化人類学、環境人類学。研究の関心は、水産コモディティチェーン、気候変動(海洋変化)の知識生成、科学技術社会論。おもな論文に“Scaling Precarity: The Material-Semiotic Practices of Ocean Acidification”(Japanese Review of Cultural Anthropology Vol. 21, No.1)、“Knowing Sea-Level Rise: Interpretive Practices of Uncertainty in Tuvalu”(Practicing Anthropology Vol. 41, No. 2)、共編著に『新型コロナウイルス感染症と人類学――パンデミックとともに考える』(水声社)などがある。

[著者]ポール・ハンセン(Paul Hansen)

北海道大学メディア・コミュニケーション研究院特任教授。健康、食料、農学に関心をもつ人類学者・社会理論家。近年では、動物―人間―技術の関係についてのマルチスピーシーズ研究を行う。研究業績については、ResearchmapもしくはAcademia.eduを参照のこと。

[著者]河合史子(かわい・あやこ)

国連大学高等研究所(UNU-IAS)SATOYAMA イニシアチブでの勤務を経てオーストラリア国立大学フェナースクール環境と社会研究科博士課程(人類生態学)を修了。専門は人類生態学、自然資源管理研究。おもな論文に“The Diversity of Seed-saving Governance and Sharing Systems in Contemporary Japan”, (Seed Governance for Resilience, Diversity and Inclusion, Palgrave Macmillan[刊行予定])などがある。

[著者]西川芳昭(にしかわ・よしあき)

龍谷大学教授(農業・資源経済学・民際学)。国際協力事業団(現国際協力機構(JICA))・農林水産省・名古屋大学国際開発研究科教授等を経て現職。おもな編著に『生物多様性を育む食と農―住民主体の種子管理を支える知恵と仕組み』(コモンズ)『食と農の知識論――種子から食卓を繋ぐ環世界をめぐって』(東信堂)共編著にFarmer Research Groups: Institutionalising Participatory Agricultural Research in Ethiopia(Practical Action Publishing)、監訳書にイアン・スクーンズ『持続可能な暮らしと農村開発――アプローチの展開と新たな挑戦』(明石書店)などがある。

[著者]鈴木和歌奈(すずき・わかな)

総合研究大学院大学先導科学研究科助教。専門は科学技術の人類学、フェミニスト科学技術論(Feminist STS)。研究の関心は、実験室研究、生命科学と社会、ケア論、情動論。おもな論文に"Improvising Care: Managing Experimental Animals at a Japanese Laboratory" (Online First, Social Studies of Science)、“The Care of the Cell: Onomatopoeia and Embodiment in a Stem Cell Laboratory”(NatureCulture Vol. 3)などがある。

[著者]奥野克巳(おくの・かつみ)

立教大学異文化コミュニケーション学部教授。専門は文化人類学、ボルネオ島狩猟民研究。おもな著書に『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』『モノも石も死者も生きている世界の民から人類学者が教わったこと』(亜紀書房)。共著に『マンガ人類学講義』(日本実業出版社)。共訳書に『人類学とは何か』(ティム・インゴルド、亜紀書房)などがある。

[著者]合原織部(ごうはら・おりべ)

京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程。専門は社会人類学、人と自然の関係研究。おもな論文に「猿害から生成されるサルの祟りの重層性――宮崎県椎葉村におけるサルと猟師と農家との駆け引きに着目して」『年報人類学研究』12 号(所収予定)、「猟犬の死をめぐる考察――宮崎県椎葉村における猟犬と猟師の接触領域に着目して」『犬からみた人類史』(勉誠出版)。

[著者]福本純子(ふくもと・じゅんこ)

福岡県立大学人間社会学部講師。専門は環境社会学、農村社会学。おもな論文に「生産基盤縮小にみる集落の自律的再編――広島県庄原市の中山間地域における稲作の縮小を事例として」『熊本大学社会文化研究』17 号、「コミュニティが担う再生可能エネルギー――東広島市の農村小水力発電の事例から」『生活環境主義のコミュニティ分析――環境社会学のアプローチ』(ミネルヴァ書房)がある。