定価2,860円(本体2,600円)
発売日2021年9月21日
ISBN978-4-7917-7416-6
なぜ耳男は死ななければならなかったのか
『地底国の怪人』『メトロポリス』『38度線上の怪物』『罪と罰』――戦後ほどなく発表された初期作品において手塚治虫が試みたものはなんだったのか。赤本、雑誌、貸本といったメディア環境の変化や、戦前・戦中期の児童文化のありようを丹念にたどり、キャラクターが生と死を演じる「物語」を描くストーリー・マンガの誕生に迫る。気鋭が挑むマンガ研究のハード・プロブレム。
[目次]
序章 物語表現としての戦後マンガ
1 手塚治虫とソーシャル・ゲーム
2 「キャラクター」と「物語」
3 手塚治虫をどう位置づけるか
4 本書の方法――物語そのものへの焦点化
第一章 『地底国の怪人』(一九四八年)の物語構造――プロットの覇権争いと内面の発生
1 はじめに――「ストーリー・マンガ」のはじまり
2 ケラーマン『トンネル』(一九一三年)との比較からわかること
3 赤本メディアの教育的側面
4 「主人公」と「敵」の造形
5 プロットの交錯と耳男の死
6 おわりに――くりかえされる「キャラクターの死」
第二章 戦前・戦中期の『少年倶樂部』における「孤児の物語」――手塚治虫以前の児童文化
1 はじめに――「孤児」の系譜
2 『少年倶樂部』というメディア
3 一九三〇年前後における海外児童文学の受容
4 日本人作家による孤児モチーフの消化
5 メディアミックスされる「孤児の物語」
6 田河水泡『のらくろ』(一九三一―四一年)と「戦い」への合流
7 おわりに――戦前・戦中期から戦後期へ
第三章 二重の物語としての『メトロポリス』(一九四九年)――キャラクターの内面的変化を描く
1 はじめに――反逆する「孤児」
2 耳男のリメイクとしてのミッチイ
3 三つのミスから見えてくること
4 「敵」と「おともの小動物」の出会い
5 おわりに――連載マンガ的なプロットへの発展
第四章 ヒロインが「敵」になるとき――一九五〇年代前半における「古典的ハリウッド映画的」様式の整備
1 はじめに――なぜリメイクが頻発したか
2 赤本単行本から別冊付録へ
3 時系列の複雑化と「映画」
4 すれちがうこと、出会うこと
5 フィルム・ノワールの隆盛と手塚作品
6 おわりに――「リアル」の獲得
第五章 『罪と罰』(一九五三年)に見るふたつの表現様式の相克――なぜ世界は破滅しなければならなかったか
1 はじめに――「文学」的な内面に挑む
2 老婆殺しの道行き
3 モンタージュによる内面表現と『罪と罰』
4 「アニメーション的」ドタバタの前面化
5 ラスコルニコフの正体
6 革命の勃発と「人格を持った身体の表象」であることの確保
7 おわりに――「人間」を目指すキャラクターの中で
第六章 劇画再考――『罪と罰』からつげ義春「ある一夜」(一九五八年)へ
1 はじめに――劇画を論じる視点
2 特異な作家としてのつげ義春
3 「古典的ハリウッド映画的」様式とキャラクターの「寡黙さ」
4 おわりに――二次創作としての「ある一夜」
終章 変化するもの、しないもの
1 本書のまとめ――手塚治虫の初期作品における物語の変容
2 手塚治虫の果たした役割
3 作り手、受け手、キャラクター
註
あとがき
引用文献一覧
森下 達(もりした ひろし)
1986年、奈良県出身。2015年、京都大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)。創価大学文学部講師。専門はポピュラー・カルチャー研究。著書に『怪獣から読む戦後ポピュラー・カルチャー――特撮映画・SFジャンル形成史』(青弓社、2016年)が、共著書に『アニメの社会学――アニメファンとアニメ制作者たちの文化産業論』(ナカニシヤ出版、2020年)などがある。過去『ユリイカ』にも多数寄稿している(「別役実の世界」「図鑑の世界」「赤塚不二夫」「こうの史代」「マンガ実写映画の世界」)。