定価2,420円(本体2,200円)
発売日2021年4月24日
ISBN978-4-7917-7373-2
私の闇に照らし出される他者
私はなぜこの〈私〉なのか――この問いが苦しみにかわるとき、私たちの旅は始まる。田中美津の性と身体をめぐる実践、アルコール依存症者の無力の自覚、シモーヌ・ヴェイユの科学批判。一見つながりのないこの三つのテーマから、私という存在の奥底にある不思議な暗さに触れ、それに驚き、そこから新しい自分を再びつかみ直そうとする。意志の破綻から自己肯定へ。私という偶然のもたらす苦悩から〈他者〉との出会いへと開かれていく、この平坦ならざる道のりの導きとなる書。
【お詫びと訂正】
『人間の生のありえなさ 〈私〉という偶然をめぐる哲学』に、誤りがございました。
お詫びして、訂正させていただきます。
259頁 6行目
(誤)長谷川
(正)長谷
[目次]
はじめに
第一章 〈私〉という偶然
1 「この日なたはわたしのもの」
2 哲学が求める知
3 なぜ私なのか――Why-me-question
4 人間の根底にある偶然
5 究極の不平等としての偶然
6 この偶然は消えた方がよいか
7 「〈共に〉しえないということ」を〈共に〉するということ
第二章 「私という真実」を生きる
第一節 〈ここにいる女〉の生 田中美津の「とり乱し」をめぐって
1 「永田洋子はあたしだ」
2 いのちの偶然――私が田中美津であること
3 とり乱し――自分と出会い、他人と出会う
第二節 生命操作に抗して何が言えるか サンデルの「生の被贈与性」と障害の問題
1 生命操作と「度を超えた行為主体性」
2 生の被贈与性を承認すること
3 自然の道徳的地位と「謙虚」
4 世界の根源的偶然性――この世界が〈このような〉世界だということ
5 この世界ではない別の世界――「絶対に違う他者」と共に生きる
第三章 ありのままの私を生きる
第一節 意志の破綻と自己肯定 アルコール依存症からの回復を手がかりにして
1 自己の力という神話
2 「私はできる(I can)」が意味するもの
3 「自分を超えた大きな力」の顕現
4 「私」の苦しみと自己肯定
第二節 「彼は私の言葉を語った」 セルフヘルプ・グループにおける「共感」の意味
1 ビルの霊的体験
2 「力の行使」と「霊性の現れ」
3 無力を生きる――ビルの「利己的」態度
4 ボブの断酒と「私の言葉」の生成
第四章 私はなぜこの私なのか
第一節 神秘の喪失 シモーヌ・ヴェイユの科学論
1 ヴェイユの問題意識
2 単純労働をモデルとする古典科学
3 古典科学への両面的評価
4 科学の成立という神秘――無限の誤差と引き換えに与えられる世界
5 現代科学批判――神秘の喪失
第二節 人間の生の〈ありえなさ〉 シモーヌ・ヴェイユにおける「不幸」の概念
1 事柄のとらえがたさ
2 不幸との接触
3 「強い魂」という問題
4 人間の生の〈ありえなさ〉
5 再び、事柄のとらえがたさについて
終わりに
あとがき
注
[著者]脇坂真弥(わきさか・まや)
一九六四年広島県生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程宗教学専攻満期退学。博士(文学)。現在、大谷大学文学部教授。専攻は、宗教哲学、倫理学。カントやヴェイユの宗教哲学の研究から、広く自由意志や人間の尊厳について考察している。また「依存症からの回復研究会」にも翻訳ボランティアとして積極的にかかわっている。共著に『宗教の根源性と現代』(晃洋書房、二〇〇一年)、『「いのちの思想」を掘り起こす』(岩波書店、二〇一一年)がある。