定価2,640円(本体2,400円)
発売日2020年11月3日
ISBN978-4-7917-7322-0
もうひとつの社会改革思想
戦後アメリカの保守主義は、「保守」という呼称に反して、アメリカ社会の改革をめざす思想だった。それは、共産主義やリベラリズムとは異なる社会改革を模索する思想であり、思想の枠を越えたひとつの運動でもあった。オールドライト、ニューライト、ネオコン、ペイリオコン、ナショナル・コンサーヴァティズム、リフォーミコン……。その思想と運動を担った一人ひとりの生涯と、その根底をなす哲学や宗教へと深く分け入り、「トランプ以前」の知られざる戦後アメリカ史を描く。
[目次]
序章 もうひとつの社会改革思想?
1 沸き起こったトランプを退場させよの声
2 台頭する別様の保守たち
3 覆い隠されてきた対立と「反革命」という共通項
4 支配階級への反抗というこだわり
第1章 オールドライトからニューライトへ バックリー・ジュニアと仲間たち
1 ニューライトとは
2 ニューライトの貴公子、バックリー・ジュニア
3 崩壊した中流家庭のもとで
4 ソ連のスパイとなって
5 ニューディールという革命
6 マッカーシズムを擁護する
7 『ナショナル・レヴュー』誌の創刊
第2章 ニューライトの思想 融合主義と『ナショナル・レヴュー』 誌
1 ニューライトの思想的マニフェスト、融合主義
2 あるコミュニストの半生
3 アメリカ保守主義のアイデンティティの模索
4 融合主義とは
5 リヴァイアサンに抗しつつ共同の防衛に備える
6 オールドライトを継承して
7 融合主義のなかの優先順位
第3章 リベラリズムに背いて ニュークラスの時代とネオコンの誕生
1 参加デモクラシーの高まりか、ニュークラスの台頭か
2 ネオコンサーヴァティズムの五つの要素
3 ネオコンのゴッドファーザーの思想形成
4 『コメンタリー』誌を引き継いで
5 ホワイト・エスニックからみた人種問題
6 オクラホマからの立身出世
7 資本主義に万歳二唱
8 ニュークラスがもたらした価値転換
第4章 「新しい保守主義」の源流 社会的保守とシュトラウス学派
1 アメリカ保守主義変容のミッシング・リンク、ジャファ
2 新しいニューライト/キリスト教保守の登場
3 アメリカ保守主義の基礎を求める論争の継続
4 シュトラウスとリンカンの隠れたつながり
5 リンカンは保守のヒーローか
6 思想的な南北戦争と「新しい保守主義」
7 社会的保守としてのジャファ
第5章 戦後保守主義のほころび ネオコンvs.ペイリオコン
1 延命された融合主義
2 ペイリオ・コンサーヴァティズムという鬼子
3 トランプに先駆けた男
4 ミドルアメリカン・ラディカリズムの現状分析と政治戦略
5 大量移民に徹底抗戦する
6 白人としての人種意識を喚起する
7 愛国をめぐるヘゲモニー
第6章 トランプに賭ける 傍流の反転攻勢
1 存在感を増してきた西海岸シュトラウス学派
2 「ユナイテッド航空九三便」としての二〇一六年大統領選挙
3 「アメリカは移民たちの国ではない」
4 「共和主義労働者党を建設せよ」
5 ナショナリズムの美徳
終章 戦後保守主義再編の選択肢
1 中産階級の復興を求めて
2 リフォーミコンの伸張はあるか
3 融合主義の再興は可能か
あとがき
参考文献/事項索引/人名索引
[著者]井上弘貴(いのうえ・ひろたか)
1973年東京都生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程満期退学。博士(政治学)。自治体非正規職員、早稲田大学政治経済学術院助教、テネシー大学歴史学部訪問研究員などを経て、神戸大学国際文化学研究科准教授。専門は、政治理論、公共政策論、アメリカ政治思想史。著書に『ジョン・デューイとアメリカの責任』(木鐸社)、訳書にP・ギルロイ『ユニオンジャックに黒はない―人種と国民をめぐる文化政治』(月曜社、共訳)、J・ギャスティル、P・レヴィーン編『熟議民主主義ハンドブック』(現代人文社、共訳)など。