定価4,620円(本体4,200円)
発売日2020年6月25日
ISBN978-4-7917-7282-7
「うた」の発生をみつめ、「ことば」とは何かに迫る。第一人者による記念碑的著作
なぜ人は「うた」を詠むのか。そもそも「うた」とは何なのか。神話や伝承、祝詞、『万葉集』や『源氏物語』などの古典、さらにはアイヌや琉球のうたうた、漢詩、俳句、そして現代短歌まで。詩人としても第一線で活躍しつづける著者が、これまでの考究の集大成としてあらわした畢生の書。ついになる!
[目次]
凡例
序章 歌の深層へ降りてゆく
1 詩的許容を超えるために
2 構造という視野で
3 〈文法〉と〈修辞〉との二元論は
4 懸け詞という二重の言語過程
5 序詞があらわす深層
6 日本語古層の等時拍、自由アクセント
7 かなは〈清/濁〉未定の文字
8 古典から現代への懸け橋
第Ⅰ部 歌とは何かの詩学
第一章 歌はどこから来るか
1 “詩”と〈うた〉
2 「うた」の語源
3 「うたた、うたて、うたがふ」――“うた状態”
4 「うただのし、うたたけだに、うたづきまつる」
5 音楽言語の恣意性
6 神授の呪言に求める説
7 〈神々の沈黙〉のあとで
第二章 歌謡と和歌――類か個か
1 フルコト(古事、古語)のなかの歌謡
2 和歌は「うたわない」
3 『源氏物語』の歌声
4 類と個
5 類歌の生産とは
6 類推し、現在を更新する
第三章 〈うた〉の読み手
1 詠み手とはだれか
2 表現する主体
2 “われ”というゼロ人称
3 深層から下支えする
4 物語歌の四人称
5 自然称、擬人称
6 “現在”という時称
第Ⅱ部 心とことばと本文
第四章 万葉びとのために
1 書き下し文の表現を作る
2 『万葉集』の時代へ還せ
3 新羅郷歌式表記(非略体)
4 「莫鳴きそ、相ひし時、いりひみし、清明こそ」
5 一字一音式表記、漢詩式表記(略体)
第五章 「相聞往来」とその行くえ
1 「正述心緒、寄物陳思」
2 贈答歌としての「相聞」
3 歌の要請する情愛表現
4 かな文化へ
第六章 「興」という詩的言語
1 “詩”をそだてる風土と家
2 「興中」へいりこむとはどうすることか
3 興に拠る「春愁三首」
第七章 古今集の心と詞
1 「心によって学ぶ」
2 「詩の挫折」
3 『古今集』序が肯定すること、否定すること
4 「心とことば」と「(うたの)さま」
5 古代の「こころ」
6 「人の心、花になりにけるより」
7 好色の家、乞食の客
8 『古今集』の「心」
9 「言の葉」にこもる真情とその行くえ
10 主題的なシークェンス
第Ⅲ部 神歌(かみうた)から記載へ
第八章 呼びかける唱謡
1 歌謡の原型
2 歌謡の原型、さらに
3 「歌謡以前の姿」(知里真志保)
4 神の領と人間の声
5 「うた」と〈神話=昔話〉
第九章 「神歌、史歌」と神話
1 吉本、本永、「祓い声」
2 「史歌」(稲村)、「神歌」(外間・新里)、英雄叙事詩
3 飛鳥爺の「史歌」
4 柳田の「神話」
第十章 古代歌謡から万葉歌へ ――年代像
1 内在する表現の論理
2 久米歌に見る成立事情
3 見立てとしての「狩り」
4 「神語(かむがたり)」という戦闘歌謡
5 英雄時代論争一班
6 「遊猟」という語は
第十一章 万葉文化論
1 「殖ゑし芽子」「殖ゑし田を」
2 佐保川の水を塞き上げて
3 本文構築、訳万葉
第十二章 和歌と琉歌
1 和歌の影響の濃淡
2 和歌的な措辞
3 琉歌の「恋」
第十三章 歌形の記載――『おもろさうし』の“詩”
1 現代(日本)語訳おもろ
2 主取りとおもろ歌唱者
3 記載は何を省略するか
4 反復部=繰り返し部の認定
5 復元の歌い
6 沖縄対等史観 古日本と古琉球
第十四章 57577詩を世界に求める――サンガム詩
1 サンガム詩と『万葉集』
2 アーシリヤ調、ヴァンジ調
3 カリ調、ヴェン調
4 恋する“ソングライン”
5 〈片歌〉とタミル語詩の韻律
6 「日本短歌の起源」を求めた人
第Ⅳ部 歌姫記
第十五章 衣通郎姫の伝え
1 伝承から史実を生じる
2 歌儛所の歌姫が舞う
3 光りかがやく天女
第十六章 小野小町の〈夢と現実〉
1 衣通姫のいにしえ
2 夢と現実 呪術的とは
3 「夜の衣を返して」「袖折り返し」
第十七章 歌垣から女歌へ
1 「歌垣から女歌へ」とは
2 折口の「歌垣発想の歌」は
3 「正述心緒」歌
第十八章 和歌での生活――蜻蛉日記歌
1 求婚に始まる和歌生活
2 歌日記の体裁
3 「なげきつゝ独りぬる夜の」
4 天下人よ、しな高き宿を訪問する事例とせよ
第十九章 和泉式部日記と人生
1 生を生き辿る試み
2 第二夜の受けいれ
第Ⅴ部 源氏物語歌姫記
第二十章 「夕顔」巻始まる
1 雨夜のしな定めから夕顔の物語へ
2 顔を見られる――光源氏の油断
3 もしかして常夏の女なのでは
4 「心あてに」歌
5 高貴な花盗人への挨拶
6 挨拶から好色への「曲解」
7 筆致を書き変える――「寄りてこそ」歌
8 「花に心をとめぬ」
第二十一章 藤壺妃の宮
1 「世語りに、人や 伝へん」
2 「から人の袖ふること」
3 「猶疎まれぬ」
4 「賢木」巻から「薄雲」巻へ
第二十二章 秀歌の終り 明石の君
1 最初、明石の君は返歌せず
2 「いづれを夢と」
3 「かひなきうらみだにせじ」
4 明石の別れの歌群
5 「澪標」巻の歌
第二十三章 歌人浮舟の成長
1 浮舟の物語歌 作歌という方法
2 危うい宇治橋、変わらぬ橘の小島
3 浮舟的状況と作歌
4 歌物語的世界
5 手習の君
6 「手習」巻の歌、後半
第Ⅵ部 歌の魔の起源
第二十四章 歌語り百人一首――短歌のどこがおもしろい
1 直情の詩のおかしさの発見
2 女歌の百人一首
3 わからないふりをしてつっこみを
4 「春過ぎて、夏来にけらし」
5 なぞとき百人一首
6 「かささぎの」「天の原」
7 単屈折、複屈折
第二十五章 日本語にとって短歌とは何か
1 「うしろ手で春の嵐のドアとざし」
2 口語発想とその戦後
3 佐藤、宮、近藤、中城、塚本
4 琉球、アイヌ、在日の短歌詩人
第二十六章 第三の戦後ののち――新芽の光・今宵の雨月
1 鱗のごとき光
2 四つんばいに
3 きこゆにんげんの打つまつり
4 今夜雨月
5 血と肉
6 たれかはかなき
7 うろをたまはる
8 くれなゐの鋭く
9 きみ立てば
10 あしあとのやうな
11 刺さむかな、ゆふやけて
第二十七章 あたらしい短歌、ここにあります
1 文/口語表現
2 危うい用法
3 下支えと難解き
4 次世代短歌へ
第二十八章 宋詞と歌人
第二十九章 痛い
第三十章 引用する蕪村
終章 人はどのような時に絶唱を詠むのか
あとがき
古典など詩歌索引
人名・神名索引
[著者] 藤井貞和(ふじい・さだかず)
1942年東京生まれ。詩人、国文学者。東京学芸大学、東京大学、立正大学の各教授を歴任。1972年に『源氏物語の始原と現在』で注目される。2001年に『源氏物語論』で角川源義賞受賞。詩人としては、『ことばのつえ、ことばのつえ』で藤村記念歴程賞および高見順賞、『甦る詩学』で伊波普猷賞、『言葉と戦争』で日本詩人クラブ詩界賞受賞、『春楡の木』で鮎川信夫賞および芸術選奨文部科学大臣賞など、数々の賞を受賞している。そのほかの著作に『源氏物語』、『物語の起源』、『日本語と時間』、『文法的詩学』、『日本文学源流史』など多数。