「ほころび」の精神病理学

-現代社会のこころのゆくえ-

鈴木國文 著

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「ほころび」の精神病理学

定価本体2200円+税

発売日2019年7月24日

ISBN978-4-7917-7185-1

「気分」と「病態」のあいだで。
いつの時代も、社会はどこかにほころびをもち、わたしたちは心に裂け目を抱えながら生きてきた。ほころびを繕うのではなく、裂け目を綴じるのでもなく、人間の脆さと向き合ってみること。脆弱性(フラジリズモ)と不安定性(プレカリテ)の時代。ユーウツ、心の闇、ひきこもり、依存、リスカ、メンタル、アスペ、多動……。病態の変化の背景にある、社会の変容を見据えながら、いま精神科医療に求められていることは何か、ほころびの手ざわりをたよりに考える。

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【目次】

序章 ほころびに何を見るか

1 ほころびの手ざわり
2 近代の二つの面――強い思考、弱い思考
3 精神科分類体系と病態の変化
4 精神のほころびと主体の始原
5 本書の章立てについて

I 現代社会の裂け目

第1章 震災後のこころのゆくえ
1 あの日、そして
2 「我々」の年表
3 自然とリスク
4 科学と「想定外」
5 裂開が見えるか
6 こころのゆくえ――倫理について

第2章 「前進すること」と「立ち止まること」の間で――東日本大震災から五年
1 海岸線
2 かき消されたこども
3 hikikomori 研究
4 「死の練習」と日常生活
5 立ち止まる人

第3章 「メンタル問題で、ちょっと」――自立と先制医療
1 メンタル問題?
2 精神科医療の対象拡大と医療の変化
3 社会の中の個人
4 新たな時代の精神医療
5 「メンタル問題」に耳を傾ける

Ⅱ 精神医学の潮目1

第4章 憂うつはもう機能しないのか――「不安」と「うつ」の役どころ
1 精神科医療と「不安」、「うつ」
2 「うつ」概念の変化
3 男の不安、女のうつ
4 不安とうつが機能しない時
5 脆さは「もうひとつの場所」を指しうるか

第5章 「うつ」の味――精神科医療と噛みしめがいの薄れた「憂うつ」について
1 はじめに
2 近代とゆううつ――アセディア、メランコリー
3 メランコリーと倫理
4 メランコリー親和型とメランコリー
5 新しい「うつ」?
6 現代のエディプスは「うざい」と言うか?
8 社会との繋がりと倫理――共同体の果てと青年期

第6章 「多動」の時代――アナタの何を信じ、何を愛すればいいのか
1 時代が見せる切断面
2 受動的か、能動的か
3 解離(dissociation)と多動(hyperactivity)
4 無自覚か、自覚的か
5 解離と気づき
6 人格はもはや、信ずるにも、愛するにも値しないのか
7 精神医学の知は

Ⅲ 精神医学の潮目2


第7章 主役が交代するとき――統合失調症と自閉症スペクトラム障害の現在
1 なぜこの二つの病態を並べて論ずるのか
2 ASD概念はどのようにして大人の精神科臨床に浸透したか
3 同じ時期、統合失調症は
4 統合失調症とASDの相違について
5 「反主体」としての統合失調症、「社会性の障害」としてのASD
6 今日の社会の困難と精神病理学の裂け目

第8章 ラカンの理論から考える自閉症
1 ラカン派と言うけれど
2 はじめに考えておくべきこと
3 自閉症の病態をどう見るか
4 残された課題

第9章 自閉症スペクトラム障害と思春期――成人の精神科医療の立場から
1 成人精神科臨床と自閉症
2 思春期の困難とふたつの穴
3 穴と視線触発
4 幼児期における二つの穴と思春期の困難
5 思春期の自閉症スペクトラム障害の支援のために

Ⅳ 精神病理学の結び目

第10章 精神の病理、責任の主体――社会の変容と病態の変化を踏まえて
1 倫理と責任能力
2 統合失調症と責任
3 ある触法行為
4 自由という淵
5 カントの自由、ラカンの「Che vuoi?」
6 自由と責任
7 社会の変化について

第11章 心的因果性と精神療法――逆行する二つの時間性
1 精神医学の特殊な事情
2 精神障害におけるいくつかの「因果関係」
3 臨床場面で
4 人格概念の後退と医療化
5 精神病理学と精神療法の可能性

第12章 精神分析と科学――真理は女の側に、知は男の側に
1 問いのありか
2 科学と科学論、そして精神分析
3 フロイトによる宗教の系統発生
4 エディプスの解消と超自我の発生
5 真理と知の解離
6 ないはずの外部へ

終 章 私たちの立っている場、そしてこれから
1 ピノッキオ
2 〈他者〉の声と社会
3 科学と欲望
4 病態の変容が示しているもの
5 精神病理学の新たな地平

あとがき

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[著者] 鈴木國文(すずき・くにふみ)

1952 年生まれ。松蔭病院院長・名古屋大学名誉教授。精神科医。名古屋大学卒業。マルセイユ大学外人助手、京都大学保健管理センター講師、名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻教授・名古屋大学学生相談総合センター長などを経て現職。著書に『神経症概念はいま』(金剛出版)、『トラウマと未来』(勉誠出版)、『時代が病むということ』(日本評論社)、『同時代の精神病理』(中山書店)、『精神病理学から何が見えるか』(批評社)、共著に『「ひきこもり」に何を見るか』(青土社)、『発達障害の精神病理I』(星和書店)などがある。ジャック・ラカン一連のセミネールの翻訳を務める。