定価2,200円(本体2,000円)
発売日2019年7月25日
ISBN978-4-7917-7191-2
湯川秀樹の弟子が見てきた物理学のこれまで。そして日本の戦後。
山形から湯川にあこがれて京都大学に入学した青年は、戦後日本の変化を巨人の傍らで見続けてきた。物理学のうつりかわり、科学そのものの意味の変貌、そしてそのなかで出会ってきたさまざま人たち――。現代を代表する物理学者がつぶさに見てきた、もうひとつの戦後日本の姿。
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目次
第1章 煮詰まった世紀末――自伝的回想・序
過去を紙パルプに戻す/大学五五年の堆積物/知的生活の堆積物/煮詰まった二〇世紀末/京都大学設立一〇〇年の頃/湯川秀樹の顕彰/二〇世紀後半の素粒子物理学/研究経費の爆発と国家/「標準理論」達成とプロジェクトの終焉、その内部的な問題/「湯川・朝永生誕一〇〇年記念」事業/湯川を時間軸にした生涯
第2章 昭和新開地の駅前で――明日を待ちわびる時代に
「山形県のどこ?」/終戦秘話――一高生の逃避行/飯野徹雄「鮎貝耕記」/我が家は鮎貝駅前/「米沢の在」の鮎貝村/鮎川村に鉄道がやってきた/新開地――駅前団地/兄弟八人の大家族/国民学校入学/騒々しい家庭/特需続き/骨董屋の活躍/豪華な蔵書セット/東京見物/自分の想像世界を豊かに
第3章 「原子力時代」開闢のなかで――「ビキニ」で時代が動く
湯川帰国と全国「行幸」/日本にノーベル賞/「再生への勇気」、「文化国家」、「原子力」/高校時代/東京で模擬試験/「ビキニ」の衝撃と戦後五〇周年/中村雄二郎「科学研究とリビドー」/京都大学入学――宇治キャンパス/自主ゼミ/湯川の講演・講義――大学院を進路に/北白川の下宿/父のこと
第4章 宇宙新発見の時代を神風に――「核」から「相対論重力」へ
「B物質から高級アルコールまで」/物理学の「縦」と「横」/大学院入学、『核融合』/UGY、宇宙船、磁気嵐国際会議のアルバイト/シンクロトロン放射/ブラックホールとビックバンの登場/クェイサーの発見と小さい巨大エネルギー源/一九六三年のホイルらの相対論重力論文/巨大質量星の不安定性/ビックバンとニュートリノ/CMB発見と元素合成/宇宙の晴れ上がり、水素分子形成、銀河質量/「声掛け助手」の最後か/宇宙物理の林研究室として安定/科研費返上騒動/反核兵器運動
第5章 ブラックホール・ブームの中で――「人生の転機」
朝永からの突然の手紙/基研の助教授に/“輝く基研”/「ビッグバン・素粒子」と「ブラックホール・一般相対論」/ブラックホールはカー解だけか?/アインシュタイン方程式の定常解/不発のTS第一論文/摂動解から厳密解へ/初めての海外/ポーランド、ソルベー会議/カリフォルニア大学バークレー校/帰国の一九七四年秋/力の分岐図/一九七五年トリエステ/基研の所長/湯川マター/講座増の奇策/大学・本省・政治家の仕切り
第6章 漂流はじめて「物語」――湯川終焉と「海外」と
「基研創立二五周年」/手術で激変の湯川の風貌/湯川と出版文化/一九七七年の夏の世界一周/アインシュタイン生誕一〇〇年MG会議/朝永の訃報/一九八〇年中国訪問と「林還暦記念」/ニュートリノ質量とテキサス・シンポジウム/グースとディラック/内外の周辺研究者/一九八一年カリフォルニア/湯川の逝去/漂流はじめた「物語」
第7章 科学で広がる世界と人々――想像を超えて
「宇宙を顕微鏡で見る」/「統一」の融解/「一九八四年の虚脱感」/TS解その後/膨張宇宙での構造形成/多重結合空間/名古屋観測とビッグバン不信/一九八三年の頃/一九八四年の頃/一九八五年の頃/基研から理学部へ/チャンドラセカール招聘/広がる世界と人々
第8章 超新星1987Aの衝撃――「宇宙線は天啓である」
「プリンキピア」三〇〇年/マゼラン星雲で超新星爆発/「カミオカンデ」と「ぎんが」/超新星セッションに割り込み/村木に点火/マゼラン星雲の見える南半球へ/JANZOS隊長/NZあれこれ/米学会「日本の物理」特集/JANZOSからCANGAROO、さらにCTAへ/JANZOSからMOAへ/宇宙線研究所の難題/宇宙線ルネサンス/宇宙線の再校エネルギー/地文台のサイエンスと「相対論の破れ」/追悼――高橋義幸
第9章 ポスト・コールドウォー――ソ連崩壊とSSC中止
冷戦構造の崩壊/「安定した東西対立」の構図/「冷戦崩壊あとのIUPAPの役割」/冷戦と基礎科学/ポスト・コールドウォー/観測的宇宙論/リフシッツ夫妻の招聘/京大理学部学部長/大学院重点化/大学院重点化と院生の減少の皮肉/基研の敷地問題/赤坂御所晩餐/「ミニ博物館」、史料保存/阪神淡路自身、京大一〇〇周年、早朝選挙
第10章 「もの書き」人生の交わり――「活字になる」に魅せられて
退官記念パーティー/国民国家の学者と出版界/『科学と幸福』/「問う」科学から「問われる」科学へ/「科学/技術と人間」/「岩波現代文庫」/物理の「岩波講座」/岩波講座「物理の世界」/『岩波理化学辞典』/雑誌『科学』/『アインシュタインが考えたこと』など/雑誌『自然』中央公論/講談社ブルーバックス『相対論的宇宙論』/集英社『イミダス』/京都大学学術出版会/『現代思想』/みさと天文台『Mpc』などへの連載/補遺
第11章 揺れる学会諸事――「戦後成長」の終焉とグローバル化
何が「カッコいい!」のか?/『プログレス』編集員/「円高」と「IT化」の荒波/国内コミュニティーの融解/IT・オンライン化の波/日本物理学会会長/日本学術会議・物研連・大型科学/総合誌創刊の試みの挫折/湯川記念財団/核融合フォーラム/韓国の世界物理年――「ハイテク」のアインシュタイン/みさと天文台/科学教育いろいろ/責任を問う母体
第12章 光陰者百代之過客――岡本道雄と河合隼雄
桑原とツーショット/「京都会議」/稲盛財団/鶴見俊輔の照れ笑い/「公共哲学京都フォーラム」/キャンパスライフ余禄/甲南大学へ/交流余禄/臨床心理――河合隼雄/駄洒落の達人/不発の多田富雄との出会い/坂東昌子/鈴木健二郎夫妻
あとがき
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[著者]佐藤文隆(さとう・ふみたか)
1938年山形県鮎貝村(現白鷹町)生まれ。60年京都大理学部卒。京都大学基礎物理学研究所長、京都大学理学部長、日本物理学会会長、日本学術会議会員、湯川記念財団理事長などを歴任。1973年にブラックホールの解明につながるアインシュタイン方程式におけるトミマツ・サトウ解を発見し、仁科記念賞受賞。1999年に紫綬褒章、2013年に瑞宝中綬章を受けた。京都大学名誉教授。著書に『量子力学のイデオロギー』、『量子力学は世界を記述できるか』、『科学と人間』、『科学者には世界がこう見える』、『科学者、あたりまえを疑う』、『歴史のなかの科学』、『量子力学が描く希望の世界』(以上、青土社)ほか多数。