定価2,860円(本体2,600円)
発売日2019年5月23日
ISBN978-4-7917-7168-4
「病気」の向こう側にあるもの。
科学者たちは顕微鏡のなかの小さな生きものを、どのように病原菌としてとらえたのか。近代は病いについていかなる言葉で語ってきたか。微生物の発見。ワインの味。臨床医学の誕生。エイズとその隠喩。「らい」と戦後日本。疲弊と回復――。病いとその表象の向こう側にある、生きているわたしたちの歴史。
【目次】
はじめに ――生きる・病む・擦れる・壊れる
I 身体を切る・開く
1 血液循環論と心臓 ――近代医学の身体
1 「生きているもの」の数
2 全体と部分
3 中心の発見
4 「予約」された近代
2 顕微鏡が変えた世界の見方 ――人体のうちとそと
1 新しい視界の出現 ――驚異と疑念
2 人体とミクロの視界
3 「生命」の世界の一元化へ
3 一九〇〇年的臨床身体・試論
1 「現代」へ
2 「一九〇〇年」の周囲で
3 「臨床」・「身体」
4 一九世紀の果実、二〇世紀の種子 ――パストゥールについて
1 カンギレムとフーコー ――医学史をめぐる哲学の対話
2 「一九世紀におけるすべての医学理論の死」
3 パストゥールという思考装置
4 「生成、生命のすべて」
II 病むことの意味・価値
5 誰もひとりではない、貧しいものはなおさら ――フーコー『臨床医学の誕生』を読む
1 「臨床医学の誕生」という歴史を読む
2 変容と誕生 ――連続のうちに孕まれる歴史の非連続性について
3 患者の病気・知を生む身体 ――「社会」が形成する制度=「クリニィク」
4 「同時に〈知識/知る行為〉でもあるまなざし」 ――医師の内的な再構成について
5 「同じ光」 ――サドとビシャの光
6 隠喩と科学の歴史 ――感染症と二〇世紀
1 一九九四年日本のエイズ
2 「語り方」の選別 ――「隠喩的膨張」と「正しい知識」
3 隠喩として「感染症」/「二〇世紀」の隠喩としてのWHO
4 隠喩の終わりと科学の歴史 ――終わることは可能か
7 疲れの病理学 ――P・ジャネにおける「病気」と「治療」
1 不全という病理 ――一九〇〇年にむけて
2 精神と病理、病理の行動 ――P・ジャネ的精神病理学
3 病理としての「疲れ」 ――人間という収支における
4 ジャネと「治療」 ――「疲れ」はどこを目指すか
8 病いに別れを告げる ――「らい」と日本社会の戦後
1 「らい」と一九六〇年代日本の罪
2 病気が消えたとき
3 未来と約束のなかで
4 残される・生きる・身体
III 生を書く・求める
9 〈科学〉と「信じられない事柄」
1 「科学者であること」の一事例から
2 コッホとパストゥールの対立
3 「ひとかどの科学」の誕生
4 「コッホの条件」と「学問の典型」
5 「怠慢」
10 自生するものについて ――アメリカ、二〇世紀をめぐる試論
1 二つの科学
2 新成人の出来 ――アメリカの科学史
3 「バイオテクノロジー」の日常的実践 ――「アメリカ」の民族誌?
4 「自生する身体」からの問い
11 臨界・生成・「われわれ」の知 ――「微細な生」をめぐって
1 エーコ・「私は怖い」から
2 パストゥールの「生命のすべて」
3 「いまはもう方法序説の時ではないことは疑いない」
12 生きているものをとらえる難しさ
1 レーウェンフックの見た「小さな生きもの」
2 「病原体」と出会う難しさ
3 「病原体」の科学が生まれるために必要だったもの
4 私たちの「病気」の向こう側にあるもの
おわりに代えて ――病いと時間はことばにつられて
索引
[著者] 田中祐理子(たなか・ゆりこ)
1973年埼玉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。博士(学術)。現在、京都大学白眉センター特定准教授。専門は、哲学・科学史。著書に『科学と表象――「病原菌」の歴史』(名古屋大学出版会)、『〈68年5月〉と私たち――「現代思想と政治」の系譜学』(共著、読書人)、『啓蒙の運命』(共著、名古屋大学出版会)、訳書にグザヴィエ・ロート『カンギレムと経験の統一性――判断することと行動すること 1926-1939年』(法政大学出版局)、池上俊一監修『原典 ルネサンス自然学 上』(共訳、名古屋大学出版会)などがある。