定価2,420円(本体2,200円)
発売日2018年9月19日
ISBN978-4-7917-7102-8
しっくりくることば。文章読本の決定版。
ひらがなと漢字の使い分け、句読点の打ち方の基礎から、文学作品のしかけ、構成、余韻の味わいまで――。作家文体や、巷にあふれる言葉の端々ににじむ、日本語の奥ゆき。書いてみたくなる、日本語レッスン。
【目次】
はじめに
序章 よき書き手となるには
文章上達の技法/読むのは他人/書く側でできること/人柄が伝わる
【基礎編】
Ⅰ 表現のたしなみ
1 ひらがな・漢字・カタカナを使いこなす
日本語は文字が多彩/和語の表記/外来語の表記/漢語の表記/代用漢字/用字の感触/異例表記の効能/漢字は意味のヒント
2 漢字を正確に使い分ける
字体変更の余波/タイプ別誤字の系統/使い分けたい漢字の一覧
3 仮名遣いのルール
仮名の誕生/仮名遣いの基本/表音式の例外/四つ仮名
4 送り仮名は例外を覚える
送り仮名の起源/活用語の原則/活用語の例外/活用しない語の送り仮名/慣用が固定している名詞
5 意味の微差からことばをしぼる
意味用法も時代とともに/お名前は?/「天気」と「天候」/「時刻」と「時間」/「建築」と「建設」と「建造」/「消毒」と「殺菌」と「滅菌」/「料理」と「調理」/候補は多めに
6 語感から最適の一語を探る
「生きざま」の語感/「外人」と「外国人」/「永久」と「永遠」/「出身地」と「郷里「故郷」「ふるさと」/感触の違い/〈語感〉の全体像
7 コロケーションをなめらかに
ことばの住み分け/なじみの語結合/慣用語結合と用語の傾向
8 慣用句・諺をしっくりと
慣用句・諺の誤用/固定連語は正確に
9 修飾は効率よく
プレーンな文章/修飾順のルールの誤解/読み手を信頼して簡潔に
10 あいまいさを自覚する
「あいまい」を曖昧/音と字のレベルの誤解/あいまいさの諸相
11 文脈の働き
文脈に浮かぶ表現/助詞がコントロール
12 敬語表現にその人が映る
敬意に関係する行動/態度が反映/敬語の知識/過剰敬語/敬称の問題/ことばの背景をなす心くばり
13 文の筋を通す
乱れは長さから/よくある文のねじれ/呼応に気を配る/並列をきちんと
14 文の長さの調節
流麗なかたまりを扱いやすく分断/文は切るから切れる/長文の名人芸/文の長さの標準は?
15 記号類は意図的に
文章の中の文/読点の勘どころ/引用符などの諸用法/リーダーとダッシュ
16 改行はメッセージ
「分かる」ように「分ける」/文体としての段落
17 引用は道義的に
責任の所在/引用の形式/出典の示し方
18 語りの調子は場に応じて
講演の語り/論文の調子/一般向けの叙述
19 推敲は他人になりきって
推敲のたしなみ/他人になりきる/推敲のポイント
【応用編】
Ⅱ 表現のもてなし
1 発想が光る
発想の転換/自転車捨て場/修辞的残像/陰翳礼讃/桜の樹の下には/富獄百景
2 作品構成からサスペンスが
『こころ』誕生まで/小説の構成/サスペンス効果
3 書き出しの種類
〈時〉から書き出す/〈場所〉から書き出す/〈状況・事情〉から書き出す/唐突な書き出し/奇抜な書き出し/雄大な書き出し/象徴的な書き出し
4 結びにふくらみを
結びらしく/自然に終わる/冒頭と呼応/余韻の響く結び/ふわっと放す
5 視点で方向づける
内部視点と外部視点/『武蔵野夫人』の視点構造/視点のありか/忍び込む視点/視点人物の映像化/視点の揺れ
6 同じ語を避け多彩に
道後回避の美意識/単調になりやすい日本語の文末
7 散文にも息づかいのリズム
構造的リズム/歌うような調子/心地よい諧調/畳みかけ/降り注ぐ同語/精のリズム
8 表現の〈間〉の成熟
認識上の〈間〉/文章の呼吸/表現の穴あけ/主体化された〈間〉/修飾的な〈間〉/〈間〉の成熟
Ⅲ 表現のしかけ
1 省く
接続詞の有無/省略で文学空間が広がる
2 くり返す
自然をなぞる反復/息苦しいまでの反復
3 喩える
比喩は見方の開拓/赤ん坊の皮膚/忘れられた毛糸/泣きべそ/女の踵
4 もたせる
脳の襞/思いつめた目をした中年男
5 盛り上げる
わかれ/轟きわたる
6 並べたてる
隙間なく/ことばの洪水
7 遠まわしに
下から勘定/あるもの/たしなみの間接化
8 人めかす
中肉中背/犬の聴講生
9 おおげさ
百万巻のお経/首だけが/すべてが無か
10 逆なで
不幸な幸福/音のない音/理知的なジュリエット/読むより眺める
Ⅳ 描く
1 人間
髪/こめかみ/瞼/眼/耳/鼻/頬/口/唇/顎/顔/首/肩/乳/腰/膝/肌/髯/姿/匂/声
2 心情
喜び/怒り/悲しみ/恐怖/羞恥/陶酔/嫌悪/昂奮/安堵/驚愕
3 感覚
光/影/色/動き/状態/音響/嗅覚/味/触覚/痛痒/寒暖/乾湿
4 風景
日/月/雨/雪/風/山/海/川/林/花/花火/時
Ⅴ 余白
1 余情のありか
余情とは何か/余情の条件/余情の技術/余情の実際
2 日本語の四季
日本語の季節感/春のひかり/夏のみどり/秋澄む/冬冴ゆる
3 ユーモアのセンス
信じられない偶然/エスプリの奥の素顔/井伏鱒二からの宿題/浅酌微吟
終章 表現の奥に映る人影
人生の風景/風情を描きとる/含羞のおとぼけ/割り切れないままに/文体に染まる/時とともに熟す
[著者] 中村明(なかむら・あきら)
1935年9月9日、山形県鶴岡市の生れ。国際基督教大学助手、国立国語研究所室長、成蹊大学教授を経て、母校の早稲田大学教授となり、現在は名誉教授。主著に『比喩表現の理論と分類』(秀英出版)、『日本語レトリックの体系』『日本語文体論』『笑いのセンス』『文の彩り』『吾輩はユーモアである』『語感トレーニング』『日本語のニュアンス練習帳』『日本の一文30選』『日本語 語感の辞典』『日本の作家 名表現辞典』『日本語 笑いの技法辞典』(岩波書店)、『作家の文体』『名文』『悪文』『文章作法入門』『たのしい日本語学入門』『比喩表現の世界』『小津映画 粋な日本語』『人物表現辞典』(筑摩書房)、『文体論の展開』『日本語の美』『日本語の芸』(明治書院)、『文章をみがく』(NHK出版)、『日本語のおかしみ』『美しい日本語』(青土社)、『比喩表現辞典』(角川書店)、『感情表現辞典』『感覚表現辞典』『分類たとえことば表現辞典』『センスをみがく文章上達事典』『日本語 描写の辞典』『音の表現辞典』『文章表現のための辞典活用法』(東京堂出版)、『漢字を正しく使い分ける辞典』(集英社)、『新明解 類語辞典』(三省堂)など。『角川国語新辞典』『集英社国語辞典』編集委員。『日本語 文章・文体・表現事典』編集主幹。日本文体論学会代表理事(現在は顧問)、高校国語教科書(明治書院)統括委員などを歴任。