定価1,980円(本体1,800円)
発売日2018年9月19日
ISBN978-4-7917-7100-4
数学を「社会的共通資本」にするために。
戦後を代表する経済学者、宇沢弘文の打ち立てた「社会的共通資本」とは、人間に不可欠の基盤的装置、市場取引や競争に委ねることが許されない資本の総称であった。数学もまた、社会的共通資本ではないか。宇沢理論を引き継いだ「小野理論」や「帰納的ゲーム理論」を紹介しながら、技術性に偏りすぎた数学の壁を乗り越える。宇沢弘文に親炙した著者による、数学と経済学のリハビリテーション。
【目次】
第1章 ケインズから宇沢弘文へ
宇沢弘文先生との出会い/経済学に惚れ込む/ケインズ理論と宇沢先生/社会がかかる病気を治す/医療保険制度ナショナル・ヘルス・サービス(NHS)/リーマン・ショックとケインズ理論
第2章 宇沢弘文は何を主張したのか
宇沢弘文の経済学を総覧する/新古典派から制度学派へ/二部門経済成長モデルと資本蓄積/ストックとフローの問題/ペンローズ曲線と投資の調整費用/経済学における「時間」/新古典派理論への批判的決別/ケインズ主義と環境問題/社会的共通資本の理論の成立/都市論と制度学派的な手法/宇沢思想の進化の可能性
第3章 社会的共通資本としての数学
拒絶される数学/社会的共通資本の五つの特性/本来性とは何か/言語性とは何か/歴史的伝承性と地域文化性/技術性とは何か/数学の本来性と言語性/数学の歴史的伝承性、地域文化性、技術性/数学史を眺望する/ギリシャ数学の特異性/インド・アラビアの数学/ルネッサンス・イタリアの数学/数学教育の思想/自然数論/シグナリングとして利用される数学/ヒエラルキー分業/数学の社会主義的利用と資本主義的利用/障害の問題/アフォーダンス理論
第4章 統計学は世界を変え得るのか?
統計学ブーム/統計学とはいったい何者か/統計学は数学か?/物理学は統計学の実験場になった/母集団は実在しない/統計量を使う本当の理由/統計量は、パラメーターをふるいにかける計算/十分統計量の「十分」の意味/「時間順序」は不要な情報/最尤原理と最尤推定量/最もブレを小さくする推定/二項分布の例で説明しよう/統計量の必然性/仮説検定はどういうロジックか/仮説検定とはどんな推論か/確率論の循環論/最尤原理は正しいか?/統計物理の最尤原理の正当性/ビッグデータ論の再検討/統計学と確率論の未来
第5章 ゲーム理論の原点回帰
ゲーム理論の誕生/ノイマンの問題意識/何が成し遂げられたか/ゼロサムゲーム/ゲームの結末予想の難しさ/無限遡及からの脱出/行動を確率的にミックスする/ホームズvsモリアティ教授/マックスミニ戦略の正当化/新しい確率理論にもマックスミニ基準/ナッシュ均衡は優れた概念か?/クレプスの批判/ノイマンへの回帰
第6章 二一世紀の宇沢理論─―小野理論・帰納的ゲーム理論・選好の内生化
宇沢理論はこれからも進化する/小野理論と宇沢理論/小野理論による長期不況/小野理論のストックとフロー/カネよりモノ/最低所得保障と社会的不安定性/デフレ下では小野理論が同じ結論を導く/投機的動機と金融危機/ゲーム理論の可能性/帰納的ゲーム理論/「差別」へのアプローチ/フェスティバル・ゲーム/仲良し均衡と分離均衡/差別から偏見が醸成される/帰納的ゲーム理論から社会的共通資本を考える/選好の内生化/市場化は効率化ではない/市場の「外側」で作用するもの/社会的共通資本の認識不分離性/社会的共通資本の理論の今後
あとがき かけがえのない回り道
[著者] 小島寛之(こじま・ひろゆき)
1958年東京都生まれ。経済学者。東京大学理学部数学科卒業。同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。専門は数理経済学。現在、帝京大学経済学部教授。数学エッセイストとしても活躍しており、難解な理論を社会へひらいている。主な著書に『文系のための数学教室』(講談社現代新書)、『使える!経済学の考え方』(ちくま新書)、『証明と論理に強くなる』(技術評論社)、『世界は素数でできている』(角川新書)などがある。
([カバー写真] 尾形文繁)