定価2,200円(本体2,000円)
発売日2018年7月21日
ISBN978-4-7917-7088-5
伝えておくことがある。
世界が今より善く、豊かに、美しくなるよう行為することは何より大切なことである。しかしそのはるか手前で、自らの存在に歯ぎしりし、苦しみ、どうしても前に進めなくなる個体がどのような世界にも存在してしまう。そうした個体には世界が変わるのを待つ余裕すらない。みずから変わってみるしかない。個体の変容をロマン主義の夢に封じ込めてはいけない理由がここにある。――「個体化宣言」
[目次]
Ⅰ 哲学を臨床解剖する
第一章「働き」――働きの存在論
1 働きの存在論 /2 参照項としての働きを起点とする哲学(アンリの内的生)/3 働きを通じた現実形成のタイプ――ドゥルーズ+ガタリの経験
第二章「個体」――個体の哲学
1 個はいかにして立ち上がるのか? /2 意識の個体化――手がかりとしてのフッサール /3 個体論という難題 /4 変容の兆し――ベルクソンからシモンドン /5 生成する記述、個体、事例
第三章「体験」――体験の活用
1 流行する「体験」概念 /2 体験は意識の機能性ではない /3 体験カテゴリー /4 組織化と抑制
第四章「意識」――意識の行方
1 意識、この躓きの石 /2 意識の特性 /3 意識の仮説
第五章「身体」――二二世紀身体論
1 身体の一〇〇年 /2 主題としての身体 /3 体験する身体では足りない /4 ラディカル環境デザイン /5 「建築する身体」という賭け金
Ⅱ 臨床の経験を哲学する
第六章「操作」――臨床とその影
1 哲学と操作 /2 社会構築的網目を潜り抜けて /3 実践と霊性の問題 /4 質的研究における現象学的アプローチはどこですれ違うのか /5 体験の深みへ、臨床経験と自己の変容
第七章「ナラティブ」――物語は経験をどう変容させるか?
1 EBMと調整課題としての医療 /2 ナラティブという経験 /3 物語/意味の効用 /4 遂行的物語 /5 物語を超えて――臨床という現実
第八章「プロセス」――「臨床‐内‐存在」の現象学
1 臨床という経験 /2 プロセスという経験 /3 プロセスとしての臨床 /4 ゴルトシュタインの意匠――代償と病的安定性 /5 代償と最近接領域
第九章「技」――ある理学療法士の臨床から
1 理学療法と技 /2 整形疾患という問い /3 リハビリテーションの臨床 /4 リハビリの戦略――理学療法士大越友博の臨床モデル /5 臨床モデルと神経系の戦略
第一〇章「臨床空間」――臨床空間再考
1 リハビリテーションにおける問題 /2 臨床の原則 /3 何が問題なのか?――認知神経リハビリテーションは何を行ってきたのか /4 二つの問い
星がひとつ壊れるたびに宇宙は何を聴くのだろう(ストーリー)
プロローグ 個体化宣言
0 星は生まれない
1 星こわしの仕事
2 星こわしのひと飛び
3 失敗
4 髪が口に入る
5 涙が止まらない
6 意識の融合
7 交差する邂逅
8 何も語ることはできない
9 壊すものを生み出すこと
10 そのとき
注
あとがき
索引
[著者]稲垣諭(いながき・さとし)
1974年北海道生まれ。哲学者。青山学院大学法学部卒業。東洋大学大学院文学研究科博士課程修了。専門は現象学・リハビリテーションの科学哲学。自治医科大学教授を経て、現在、東洋大学文学部哲学科教授。偶発的な「心身の事故」に寄り添い、痛みや苦しみからの回復のために哲学ができることを問い続ける。主な著書に『衝動の現象学』(知泉書館、2007年)、『リハビリテーションの哲学あるいは哲学のリハビリテーション』(春風社、2012年)、『大丈夫、死ぬには及ばない』(学芸みらい社、2015年)がある。