量子力学が描く希望の世界

佐藤文隆 著

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量子力学が描く希望の世界

定価本体1900円+税

発売日2018年6月22日

ISBN978-4-7917-7082-3

アインシュタインが決して認めなかった、まったくあたらしい世界の姿。
物理学の最先端にあらわれた、これまでの常識をくつがえす驚異の理論。そこには世界がひとつではなく多様であるという事実が描き出されていた。量子力学が描く世界とはいったい何か。量子力学の歴史と私たちをとりまく技術、社会、制度、教育などを深く結びつけながら、碩学がその大いなる可能性をさぐる。

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【目次】

序章

第1章 量子力学誕生から「黙って計算しろ」の時代へ
ボーア・アインシュタイン論争/「論争」の現在までの三期/科学と人間/シュペングラー『西洋の没落』/科学界への影響/量子力学にノーベル賞/科学がめざす真理とは/真面目・哲学青年とハイカラ・シティーボーイ/ニールス・ボーアの生い立ち/アルバート・アインシュタインの生い立ち/「一九一九年の一件」/「物理学の世紀」の三段階/「黙って計算しろ」の時代へ

第2章 決定論からの脱出――一般理論のイデオロギー
「一般理論」としての量子力学/測定技術と自然の数量化/「一般理論で括る」で現実味/九〇年間もバージョンアップ不要のスグレモノ/本書の題材は九〇年前の一般理論/接していれば安心/機会仕掛けへの反逆/人間の深層へ/連続から量子ギャップへ/“たどる”から量子遷移へ/状態ベクトル/ハイゼンベルクとアインシュタインの対話/マッハとニーチェ/ボーアの強引なシュレーディンガー説得/「波動関数」の存在論的身分/「コペンハーゲン解釈」から「ボ・ア論争」へ/「波動関数」からヒルベルト空間のベクトルに

第3章 冷戦時代の量子力学論議――「解釈することではなく、変革すること」
不安なスタート/量子力学九〇年の裏街道/EPR論文から量子エンタングル実験へ/「裏街道」を見る「地図」/ナチス政権・第二次世界大戦・原爆/坂田昌一「量子力学の解釈をめぐって」/原爆の父オッペンハイマー・マッカーシー旋風・ボーム亡命/「隠れた変数」で決定論復活?/坂田の思想善導メッセージ/「物理帝国」の正社員へ/ソ連公式思想部門での量子力学/レーニンは何を恐れたのか?/マッハは何者か?

第4章 冷戦イデオロギー構図からの脱却――一九六〇年代末の転換
いまや重点推進課題――量子情報/ボーム騒動――冷戦下の政治事件/量子力学論議の民主化/実在・理解可能性・因果性/創始者たちの分裂/ローゼンフェルド対ウィグナー/測定の第二段階の熱力学的客観性?/哲学的対抗軸の希薄化/冷戦構図の崩壊とベトナム反戦時代の若者/一九六〇年代末「世代対立」の緩和策――「フェルミ夏の学校」/米物理学会誌での量子力学企画/冷戦の落とし子エヴェレ/『ヒッピーが如何に物理学を救ったか』/一九七〇年前後の試練/UCバークレイ物理学科/量子力学実験の蠢き

第5章 「不思議」をそのまま使う――量子エンタングル技術
量子コンピュータ、お茶の間の話題に/「創始者」間の不一致/「議論」は「不思議ネタ」発掘に貢献/パラドックスは「未練」か/「科学業界」内と外/科学者の人生観はみな同じ?/問われる科学の社会的メタ/「サイエンスウォー」のトラウマ/ブルーバックスの読者/切迫した現実感/『佐藤文隆先生の量子論――干渉実験・量子もつれ・解釈問題』/不思議と専門性/自家薬籠中のものへ/越えてはならない矩/動機としての「素朴実在論」/「素朴実在論」の踏み絵

第6章 「隠れた変数」からベル不等式へ――日本での反応を見る
現実と表現/「裏」と「表」/「第二期」と「第三期」/『岩波理化学辞典』の「隠れた変数」/「量子力学論議」用語多数登場/半世紀で「辞典」の性格も変化/『培風館 物理学辞典』の「隠れた変数」/「裏」から「表」へ/ボームとベル/ボーム対湯川/湯川の量子力学/「何の情報?」、「誰の情報?」/湯川の『量子力学』序

第7章 EPR実験と隠れた変数説の破綻――確率の意味
測定の幅で同着/因果律も見方次第/量子力学への示唆――測定装置依存性/「量子」という原理的限界――不確定性関係/測定とは頻度分布を知ること/EPR論議――ミクロ物理量とマクロ物理量の相関/エンタングル――量子もつれ/遠隔瞬時相関への相対論による批判/予め決まって別れた――隠れた変数説/統計的取り扱いとは/離れた二点でスピンの向きを観測/「斜めに測る」と見える異常/統計的に対象の姿勢を知る確率的応答/ベルの不等式/CHSHの不等式/量子力学との矛盾と実験での検証/状況依存性/蟻の一穴

第8章 プラグマティズムと量子力学――「見ないと、月はないのか?」
パースのテーゼと「北朝鮮ミサイル」/「行動に影響ないものは存在しない」/ジェイムズの「多元的宇宙」/外の「宇宙」、内の「宇宙」/量子力学とニールス・ボーア/ボーアの「思想善導」/ボーアの育った環境/「振り向く前は、月はなかったと思うか?」/プラグマティズムとは何?/確率は信念の強さか?/エンタングルメントの存在論的身分/未来は「可能性の束」だから希望がある/「月は見なくてもある」

第9章 情報の「消去」で発熱――スパコン事件余話
スパコン詐欺事件/「出る釘は打たれる」/「二番目ではダメなのか」のスパコン/スパコンの高額化の原因/発熱退治のヒーロー斎藤某/情報とモノ/ファックス漫談/材料は偏在する原子/符号演算の痕跡/「消去」――情報の管理替え/モノから独立した情報の存在感/情報もモノに居場所が必要/モノの振る舞い――コトの管理替え/「消去」での発熱/「日本人離れ」

第10章 スマホの武器は配られた――イットとビット
ど肝を抜く退官行事/ハードとソフト/「情報は物理」/「量子アニーリング」/物理過程と機械過程/「アルファ碁」でなくスマホが核心/「量子力学は人間を炙り出している」/「素朴物理学」/「第一の飛躍」と「第二の飛躍」/量子力学への「第二の飛躍」は「第二近代化」の発火点か?/「何から、何をみる」/黄昏のモスクワ/「スマホの武器は配られた!」

第11章 確率の語りにつき合う――倫理とワールドビュー
「滅多なことはないのだが……」/量子力学「第一の驚異」/倫理とワールドビュー/量子力学「第二の驚異」/ICTへの食いつきの良さ/「道具が学問を変える」/可能世界の確率/量子遷移、状態の重なり、量子統計/確率と数学/形式・直観・応用/形式と意味/学校教科とSTEAM/不安への合理的対応/「過去の制作」/ランダムと頻度主義/「良い理論」

第12章 量子力学の社会学――福井謙一と「盤石な理論」
「事実」群をつなぐ「警視庁型」/「整合的歴史解釈」/「何が問題なのか?」/盤石の科学理論/新しい対象に「適応する努力」/「福井は湯川の弟子?」/福井の量子力学と喜多源逸/工学部科学に量子力学講義教授/「盤石の量子力学」と「裏街道」/三つの動機/量子力学という座標軸/『職業としての科学』/実験科学と制度科学/認識論と制度社会/「解釈論議」の社会学/福井とリーマン幾何

補章
1 量子hは精密測定の基礎――キログラム原器の廃止
2 パラ水素分子を引き離す――エンタングル実験の進展

おわりに 
自己の物語/切り拓く対処法としての確率論/「天を恨んでも仕方ない」――健気な人間像/プラグマティズムと民主主義

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[著者] 佐藤文隆(さとう・ふみたか)

1938年山形県鮎貝村(現白鷹町)生まれ。60年京都大理学部卒。京都大学基礎物理学研究所長、京都大学理学部長、日本物理学会会長、日本学術会議会員、湯川記念財団理事長などを歴任。1973年にブラックホールの解明につながるアインシュタイン方程式におけるトミマツ・サトウ解を発見し、仁科記念賞受賞。1999年に紫綬褒章、2013年に瑞宝中綬章を受けた。京都大学名誉教授。元甲南大学教授。著書に『量子力学のイデオロギー』、『量子力学は世界を記述できるか』、『科学と人間』、『科学者には世界がこう見える』、『科学者、あたりまえを疑う』、『歴史のなかの科学』(以上、青土社)、『職業としての科学』(岩波書店)、『佐藤文隆先生の量子論』(講談社ブルーバックス)ほか多数。