定価3,520円(本体3,200円)
発売日2018年3月20日
ISBN978-4-7917-7056-4
「帰らぬ人」への想いの根幹にあるものとは――
ある人は愛する人たちに看とられ、ある人は不慮の事故や病のために、ある人は戦争や突然の災害によって、生きている者たちの前から消えてしまう。遺されたものたちは、その「死」をどのように受け止めてきたのか。「死者」への想いと、その弔いのかたちを文化や歴史のなかから描き出す壮大な社会史の試み。
【目次】
はじめに
Ⅰ
第一章 甦る死者
1 死者から派生するなにか
祈念と記念/死者と仏教/死者と政治
2 死者がホトケになること——物心崇拝の形成
「葬式仏教」/「お墓」参りの形成/幕藩体制と「葬式仏教」/近世の葬送儀礼/位牌と卒塔婆
3 死者がカミになること――人格神の形成
超越的人格神の創出/超越的人格神の政治性/人格神の展開
4 ひとりひとりが甦る
ホトケとなる幽霊/ホトケとなる生まれかわり/大量死の観念
第二章 「葬式仏教」の形成
1 「葬式仏教」理解
マイナスイメージの「葬式仏教」/仏教史研究における「葬式仏教」再検討
2 「葬式仏教」形成前史
葬送儀礼と仏教との習合/墓制と仏教との習合/近世「葬式仏教」との異相
3 江戸幕府の仏教統制
小農家族の形成/民間寺院の急増/江戸幕府の寺院政策/本末制度/諸宗寺院法度/寺請制度
4 宗門人別帳の形成
宗門改帳/人別帳/宗門人別改帳/宗門改帳と人別帳
5 寺請制度の形成
制度化以前の寺檀関係/一家複数寺檀関係/一家複数寺檀関係研究史/寺檀関係の形成と一家複数寺檀関係
6 寺檀制度と民間の葬送儀礼
儀文書「御条目宗門檀那請合之掟」/寺檀制度と庶民/戒名と位牌・仏壇の定着/民間の葬送儀礼と先祖祭祀/「葬式仏教」の現代的課題
第三章 人格神の形成――「靖国問題」の基層
1 死者を祭神とする神社
創建年代の新しさ/権威としての神社
2 政治的人格神の特徴
死のケガレを忌避しない神社/味方が造った神社/常駐する祭神
3 人格神の創建
創建の契機/民間の「大権現」と「大明神」
4 靖国神社のとらえ方
第四章 明治政府新造の人格神――墓を抱え込んだ神社と脱落させた靖国神社
1 近現代の人格神
靖国神社と人格神
2 湊川神社・豊国神社・招魂社
神仏分離/湊川神社新造/楠正成戦死の記憶/豊国神社再建/京都の招魂社新造
3 ケガレ解消の政治決定
4 靖国神社の原型
東京の招魂社新造/会津戦争・函館戦争の明治政府軍墓地/墓地のない東京の招魂社
Ⅱ
第五章 「未完成の霊魂」と大量死――逆縁
1 大量死の視点から
2 戦死者の親
乃木希典と「裏門校長」/阿南惟幾/東郷茂徳/戦死した子の母親/B・C級戦犯の母親
3 春洋をなくした折口信夫
硫黄島戦死者の父親/室生犀星がみた折口信夫と春洋/「民族史観における他界観念」/「未完成の霊魂」
4 東日本大震災犠牲者の親
子を亡くした親/一家全滅/子を亡くした若い親/集団仮埋葬
5 「未完成の霊魂」の継承
「復興」とは?/大量死を背負う/「未完成の霊魂」になる可能性
第六章 戦争犠牲者と戦死者の個人性
1 死生観における個人性
死者の個人性の尊重
2 戦争犠牲者の個人性
東京都慰霊堂/「罹災死体処理要綱」/東京大空襲/仮埋葬/仮埋葬からの改葬・火葬/東京都空襲犠牲者名簿
3 戦死者の個人性
ひめゆり平和祈念資料館/月ヶ丘軍人墓地/月ヶ丘軍人墓地の戦死者像/コンクリート製戦死者
像
4 戦死者表象の異質性
戦死者墓地/兵士としての個人性の保存
第七章 地域における「英霊」の記憶
1 戦死者たちを素通りする「靖国問題」
戦後の出発点とは?/政治的記憶と社会的記憶
2 社会的記憶のなかの「英霊」
家のなかの「英霊」/地域社会のなかの「英霊」
3 戦死者戒名のなかの「英霊」
『忠霊録』編纂/戦死者戒名と「英霊」
4 戦死者たちからの出発
「靖国問題」の「問題」/BC級戦犯の遺書
第八章 戦死者多重祭祀論
1 民俗事象と靖国神社
瀬川清子「花嫁の喪服」
2 戦死者たちの多重祭祀
レイテ沖の特攻機/特攻隊員の多重祭祀
3 靖国神社への収斂
靖国神社批判の論理/靖国神社への思考の固定化
4 多重祭祀から単一祭祀へ
戦死者たちを取り戻す/靖国神社と民俗的世界についての誤理解
第九章 生活のなかの戦死者祭祀
1 父が戦死した子
調査地トラブル/現金収入と遺族年金
2 夫が敗戦後死去した妻
調査地での歓迎/生活のなかの戦死者
Ⅲ
第一〇章 安丸良夫の文献史学方法論
1 三つの分析視点
2 「通俗道徳」の方法
「通俗道徳」の「生産力」/「通俗道徳」と「民俗的世界」/ハレの重視
3 「周縁的現実態」の方法
「周縁的現実態」と「民俗的なもの」/「天皇制」の位置/ルン・プロ変革主体論
4 「生産力」について
「講座派マルクス主義」批判/神がかりの両義性
第一一章 民俗学と差別——柳田民俗学の社会政策的同化思想および「常民」概念
1 折口信夫と赤松啓介
折口信夫「ものゝかげ」/赤松啓介「非常民」
2 差別研究と被差別部落研究の異相
3 同化政策としての柳田民俗学
柳田国男の被差別部落民研究/為政者としての柳田民俗学/柳田民俗学の無転換
4 関係概念としての「常民」
「常民」とそうならざる人々/柳田民俗学の「常人」/関係概念「常民」⇔被差別部落民
5 文化概念としての「常民」
関係概念「常民」(大和民族)⇔山人(先住民族)/「常民」(大和民族)の稲作農耕文化
6 「常民」概念と差別の研究
精神的同化のための柳田民俗学/差異と差別
第一二章 『風土記日本』の現代的課題
1 民衆社会史の視点
『風土記日本』と『日本残酷物語』/『風土記日本』『日本残酷物語』のマルクス主義文献史学批判/「民衆史」とフィクション
2 場からの民衆社会史
風土と地理/自然条件からの民衆社会史/経済・産業からの民衆社会史
3 自然と民衆社会史
おわりに――二〇一一・三・一一 東日本大震災の記憶
花束/ゼロ泊一日/仮設住宅/子を亡くした母/妻を亡くした夫/仮埋葬/遺骨の安置——陸前高田市/震災犠牲者の葬儀と法要――陸前高田市/死を認めたくない気持ち――陸前高田市/遺骨の安置――大槌町/震災犠牲者の葬儀と法要――大槌町/死を認めたくない気持ち――大槌町/一年後の三・一一/震災と震災後の記憶
参考文献
あとがき
初出一覧
[訳者] 岩田重則(いわた しげのり)
1961年静岡県生まれ。専攻は歴史学/民俗学。1994年早稲田大学大学院文学研究科史学(日本史)専攻博士後期課程、課程修了退学。2006年博士(社会学。慶応義塾大学社会学研究科)。東京学芸大学教授を経て、現在、中央大学総合政策学部教授。著書に『ムラの若者・くにの若者――民俗と国民統合』(未來社、1996)、『戦死者霊魂のゆくえ――戦争と民俗』(吉川弘文館、2003)、『墓の民俗学』(吉川弘文館、2003)、『「お墓」の誕生――死者祭祀の民俗誌』(岩波新書、2006)、『〈いのち〉をめぐる近代史――堕胎から人工妊娠中絶へ』(吉川弘文館、2009)、『宮本常一――逸脱の民俗学者』(河出書房新社、2013)、『天皇墓の政治民俗史』(有志舎、2017)など。