ユリイカ2013年8月臨時増刊号 総特集=やなせたかし アンパンマンの心

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ユリイカ2013年8月臨時増刊号 総特集=やなせたかし アンパンマンの心

定価1,885円(本体1,714円)

発売日2013年8月

ISBN978-4-7917-0258-9

【対談】
"箱入りじいさん"の日々のしごと / やなせたかし×糸井重里

【書き下ろしエッセイ】
夢あれこれ / やなせたかし

【愛と勇気の物語】
いただきまーす! アンパンマン 日本的な飲食の感性を体現するヒーロー / 福田育弘
分身としてのキャラクター 『アンパンマンの遺書』『人生なんて夢だけど』を読む / 暮沢剛巳
抒情的な「反ゆるキャラ宣言」 / 犬山秋彦

【アンパンマンが教えてくれること】
みんな大好き『それいけ!アンパンマン』の心理学 / 横田正夫
ぱあぱあし / 北野勇作
アンパンマンの思い出 / 小島慶子

【己を差し出すものは……】
アンパンマンを食べることのできる者は誰だ 否定と否認の混同または脳内で命令する他者に基礎づけられた自発性 / 郡司ペギオ幸夫
かくも味わい深き他者の顔 『あんぱんまん』試論 / 大橋完太郎

【『詩とファンタジー』対談傑作選】
「世界で一番情けないヒーロー」と私 / やなせたかし×戸田恵子
書きたい詩を書けばいい / やなせたかし×谷川俊太郎
作者が面白いから作品は面白い / やなせたかし×西原理恵子

【インタビュー】
すべては運に導かれて ヒーローの肖像 / やなせたかし 聞き手=半田健人

【愛のことば】
一生アンパンマン! / 半田健人
「正室」誕生秘話 / 里中満智子

【昔、子どもだったひとたちへ】
不格好で弱くあるきみは…… / 雑賀恵子
こどもと、こどもの心をもつおとなのために やなせたかしの絵本と『いちごえほん』 / 寺村摩耶子
やなせメルヘンの輝き 『十二の真珠』が照らしだすもの / 西原麻里

【誌上ギャラリー】
やなせメルヘンの世界 書き下ろし詩

【才能のゆりかご】
『詩とメルヘン』の三〇年 その抒情性のゆくえ / 柴村紀代
やなせたかしの抒情画・抒情詩 / 中村圭子
ロダンの誓い / 葉祥明
やなせたかしさん、そして星屑の育つ庭 / 東逸子

【詩/詞の楽しみ】
青い星の祈り やなせたかしさんの詩を読んで / 原子修
やなせたかし・いずみたくがのこしてくれた歌
                 そして魂 / 近藤浩章
bitter sweet やなせ先生の歌や詩が、僕らの心に染み入る理由 / 飯田一史

【アルバム】
やなせたかしのきた道

【やなせたかしのまんが道】
ボオシ好きの某氏のこと… / 宇野亜喜良
投稿時代 / 池内紀
ナンセンスと童心主義 「ボオ氏」が立ちつくす場所 / 竹内オサム
「漫画家・やなせたかし」の履歴書 / 倉持佳代子+吉村和真
「神様」と「毛虫」のコラボレーション 手塚アニメ『千夜一夜物語』と、やなせたかし / 津堅信之

【資料】
やなせたかし略年譜 



やなせたかし先生に高知新聞のエッセイで本特集をご紹介いただきました。 

「ユリイカ」

やなせたかし


  「ユリイカ」という雑誌は昔から知っていた。内容がハイブロウでぼくには歯が立たなかった。自分とは全く縁の無い世界のメディアだと思っていた。「ユリイカ」というのはギリシャの賢人アルキメデスが合金の金の純度を計る方法を発見した時に使った言葉からきているらしい。「我発見せり」である。

 アルキメデスはそれを入浴中に思いつき嬉しくて裸のまま飛び出して「ユリイカ!」と叫んだのが語源ということになっている。

 ところがこの「ユリイカ」がぼくの特集をするというのでこれにはビックリした。こんな事があっていいのだろうかと思った。そして本当に完成して青土社から発売されたのである。これがまた実によく出来ていて、嬉しいけれども恥ずかしい。なぜかと言うと赤ちゃんの時から現在のぼくまでほとんどこの一冊に納まっている。あちらこちらで何度かやった対談もうまい具合に集められ、ぼくの誕生日の赤ちゃんの写真から94歳の現在までの写真、父親、母親、弟の写真も載っている。つまりぼくの事はこの一冊を読めばほとんど全部分かるのだ。アホな部分もナマイキな部分も手に取るように分かる。これは相当ヘタで出したくないなと思った絵も出ている。これでいいのかも知れない。自分でやればヘタな部分や恥ずかしい所は載せなかった。編集の腕の冴えを見せつけられたという感じである。

 恥ずかしい話だが、ぼくは自分の人生が終わりそうになった現在やっと自分の作品の方向が見えてきた。これが自分の道だと思うようになった。詩人ではないがそれでも書き続けてきた詩も、最近やっと誰にも似ていない「やなせたかしの詩の世界」に入ったと思う。

 それがいいとか悪いとかは別にして、誰にも似ていない自分自身の世界にやっと辿りついた。さあこれからだ!と思った時残念ながら体力が落ち、人生が終わりかけていた。まぁこんなもんでしょうね。なかなか思うようにはいかない。しかし若い時に絶頂期を迎え華麗な人生を送りながら晩年が不幸に終わった人を何人もぼくは知っている。人生の終末期が惨めであるのはつらい。それに比べれば人生のラストに絶頂期が来て経済的に何の心配も無く、これからだという時にもう少し仕事をしたいと思いながら終わるのは幸福と言えるかも知れない。  ぼくは自分の人生が恥ずかしい部分も含めてようやく剥き出しになっている「ユリイカ」をながめてつくづくそう思った。

 アルキメデスも喜びのあまりに裸で風呂から飛び出して跳ね回り、これは後で随分恥ずかしかったと思うが、ぼくもほとんど裸にされてしまった「ユリイカ」は嬉しいけれど恥ずかしくてたまらない。平凡な才能でしかも怠け者で何をやらせてもまわりの天才たちに敵わなかったぼくとしては、幸運に恵まれたことを感謝している。

(高知新聞2013年8月3日「オイドル絵っせい」(316))