定価4,840円(本体4,400円)
発売日2025年9月18日
ISBN978-4-7917-7597-2
ケルトの生命循環と人類の祈り
受難を乗り越え、光となって、強靭に旋回する渦巻――。私たち人類は「死からの再生」と吉祥を願い、渦巻文様を土器・鉄器・聖書・建築・アニメまでに刻み続けてきた。「生命循環」の象徴としての「スパイラル」に秘められた祈りと創造力。その根源を探求する画期的考察。図版多数。
いにしえの人々も、現代人も変わらない宿命がある。
私たちは人類史の大河をゆく「生身(なまみ)」の一滴であるということだ。
異質な文化文明や存在同士の交流からこそ新たな生命力が渦巻く。
(本書 あとがきに代えて より)
[目次]
プロローグ ユーロ゠アジア文明のパースペクティヴ――「芸術人類学」の方法とダ・ヴィンチの「組紐」
序章 渦巻芸術の誕生――なぜ「渦巻」は表現されてきたのか
1. 自然から芸術へ
2. 文様とシンボルの芸術人類学
3. 「ユーロ゠アジア世界」の東西からみる
第I部 生還のスパイラル構造
第1章 グッゲンハイム美術館と西洋「渦巻思想」の遍歴――F・L・ライト、ギリシャ神話、ダンテ、ポー、ヒッチコック
1. グッゲンハイム美術館の体感空間
2. 壁なき「流れ」の発見
3. スパイラルの「降下と上昇」
4. ギリシャ神話とダンテ『神曲』
5. 映画『めまい』と怪奇小説『メエルシュトレエムに呑まれて』
6. ケルト神話とライトの館――受難を超えて
♦コラム 西洋「視覚世界」のパラダイム・シフト
第II部 ケルト渦巻の思想――驚異のミクロコスモス
第2章 「トリスケル」の反転――超高速の三つ巴
1. ヨーロッパの南北――視覚芸術の差異
2. 「ラ・テーヌ様式」の美学
3. ケルト三つ巴「トリスケル」
4. 古典とケルト――ベルヌーイの遺言
♦コラム 「バタシーの楯」
第3章 再生の炉――冶金術と渦巻文様の始原
1. 「メタル」(金属)から「ヴェラム」(子牛皮紙)へ
2. ユーロ゠アジア世界の交流――スキタイとケルト
3. 「炉」からの誕生
特別チャプター 渦巻く幕間 「西方の奇想」――ジョイスと修道士
1. 赤い騎士の予言
2. ウンベルト・エーコと『ケルズの書』の迷宮
3. ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』
第III部 アイリッシュ・ダンスが起こす渦
第4章 『リヴァーダンス』――大飢饉の移民史
1. 奇跡の「リヴァーダンス」
2. アイルランド人の「エグザイル」
第5章 ケルト文様のナショナル・アイデンティティ――「トリスケル」の復活
1. 渦巻・組紐・結び目文様
2. 祖国のアーツ&クラフツ
3. 舞踏の「トリスケル」
♦コラム 生と死をみつめた「シャン・ノース」
第IV部 「ケルト・アニメ三部作」とケルティック・スパイラル
アイルランド発のアニメ芸術
第6章 『ブレンダンとケルズの秘密』――『ケルズの書』の受難とデザイン
第7章 『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』――異界と繋がる「万霊節」の巻貝
第8章 『ウルフウォーカー』と狼の精霊――ケルトとアングロ゠サクソンの対立を超えて
第V部 縄文と古ヨーロッパの「女神土偶」――「生・死・再生」の渦巻
第9章 「女神」と「母神」――「産む性」を支えた「表現者たち」
1. 「古ヨーロッパ」の考古神話学
2. 縄文文明の「女神」土偶
3. 縄文芸術の渦巻
4. 古ヨーロッパの女神
5. 「エネルゲイア」としての渦巻
♦コラム 「産む性」と「考える人」
第10章 宇宙生成論(コスモゴニー)と「母胎」渦巻――死の壺からの再誕生
1. 「身体」と「文様」
2. 「インド゠ヨーロッパ語族」文明のパラダイム・シフト
3. 「死からの再生」の器
エピローグ 「禍(わざわい)」を超える「渦(うず)」――「死からの再生」
1. 「象」の由来――曖昧で豊饒な「速記」
2. 「渦」と「禍」と死者の力
あとがきに代えて
参考文献・註・図版資料
[著者] 鶴岡真弓(つるおか・まゆみ)
多摩美術大学名誉教授・芸術人類学者。専門はケルト文化、ユーロ=アジア文明交流史。早稲田大学大学院修了後、アイルランド・ダブリン大学留学。処女作『ケルト/装飾的思考』(筑摩書房)でわが国に於けるケルト文化文明研究の先駆となる。主著に『装飾する魂』『ケルトの魂』(平凡社)、『ケルトの歴史』(共著・河出書房新社)、『阿修羅のジュエリー』(イースト・プレス)、『すぐわかるヨーロッパの装飾文様』(東京美術)、『芸術人類学講義』(編著・ちくま新書)、『ケルトの想像力』(青土社)、『ケルト 再生の思想』(ちくま新書・河合隼雄学芸賞)ほか多数。